東レ リチウムイオン電池用無孔セパレータ創出

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2020年11月24日

金属リチウム負極電池の安全化と大容量化に貢献

オンライン会見 長田所長・佃研究主幹
長田所長(左)・佃研究主幹

 東レは、金属リチウム負極電池の実用化に向け、リチウムイオン2次電池(LIB)用無孔セパレータの創出に成功した。今後、同セパレータをウェアラブルデバイスやドローン、電気自動車(EV)向けなどの次世代超高容量・高安全LIBへの適用を目指していく方針だ。オンラインによる会見を開催し、フィルム研究所の長田俊一所長と佃明光研究主幹が説明を行った。

 LIBの需要は、モバイル機器や、車載用途で急速に拡大。用途の拡大に伴い、LIBにはさらなる高容量化・高エネルギー密度化が求められており、最も理論容量が高く、酸化還元電位が低い金属リチウム負極が注目されている。金属リチウム負極は、黒鉛負極に対してイオンの貯蔵量は10倍以上となり、LIBへの使用時には従来の2~3倍の電池エネルギーが見込まれる。しかし、充電時に金属リチウム表面からリチウムデンドライト(樹枝状結晶)が成長するため、セパレータを突き破り正負極がショートしたり、セパレータが目詰まりを起こしたりと安全性や電池寿命が低下するといった課題があり、現状では実用化に至っていない。

 デンドライトは、微多孔フィルムの空孔に沿って成長するため、無孔とすることで成長を阻害できるが、リチウムイオンの透過性が悪化することから、デンドライト抑制とイオン電導性の両立が不可欠となる。さらに、金属リチウム負極を用いた電池は、高容量化に伴い安全性への要求がより高くなるため、セパレータの耐熱性や熱寸法安定性の一層の向上も必要だ。

無孔セパレータ
無孔セパレータ

 こうした課題に対して東レは、長年培ってきた高耐熱アラミドポリマーの分子設計技術を駆使し、分子鎖間の間隙(リチウムイオンのみ透過できる0.5~1㎚に設計)やリチウムイオンとの親和性を制御することで、高いイオン伝導性と高耐熱性をもつ新規イオン伝導性ポリマーを創出した。これを微多孔セパレータ上に積層しLIB用無孔セパレータとすることで、金属リチウム負極使用電池でのデンドライト抑制とイオン伝導性の両立を実現している。

 正極に3元系(ニッケル・コバルト・マンガン)、負極に金属リチウムを使用したサイクル試験では、無孔セパレータは充放電サイクル100回で80%以上の容量維持率を確認。このセパレータを使用した金属リチウム負極電池が、デンドライトによるショートを抑制できることが実証された。なおコストについては、アラミドを使用するため従来品のセパレータに比べ高価になるが、電池容量が拡大するメリットで賄えるとしている。

 一方、金属リチウム負極電池の実現には、無孔セパレータだけでなく他の電池部材との全体設計が重要となる。同社はサンプルワークなどを行い、電池メーカーとの協業を進めていく構え。3~5年後にはプロトタイプが完成し、その後、実用化が加速することを想定している。市場としては、モバイル機器といった民生用から車載用への拡大が期待される。ただ、車載用に採用されるためには、充放電サイクル500回で90%以上の容量維持率が必要となるなど、さらなる改善が求められる。

 同社は今後も、早期の技術確立に向けて研究開発を加速していく考えだ。