NIMSなど 低価格、高性能の熱電変換材料を開発

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2021年5月25日

 物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、希少元素を含まず低熱伝導率と高電荷移動度を両立した高効率の熱電材料の開発に成功した。低価格の熱電モジュールの実用化と普及に道を拓き、省エネ効果に加え、Society5.0の実現に必要な無数のセンサーの自立電源やモバイル発電機など幅広い分野での応用が期待される。

 一次エネルギーの多くは熱として排出され、その約90%は320℃以下の低温域だ。廃熱を電気に変換する熱電変換材料の効率には、熱伝導率を低く、電気伝導率を高くする必要があるが、電気伝導率が高いと熱伝導率も高くなる。Bi2Te3系が低温域で最高の熱電変換効率を示すが、主成分のTeが希少元素であることが普及を妨げている。

 今回、n型Mg3Sb2系材料に微量の銅原子を添加することで、熱伝導率低減と電気伝導率向上を両立できた。原子間隙に入った銅原子が熱伝導を司るフォノンの速度を低減し、熱伝導率を低減。また、粒界に入った銅原子が電子の散乱を抑え、高電荷移動度を向上。これにより、ジュール発熱によるエネルギー損失を抑え利用熱の散逸を抑止し、熱伝導率の低い多結晶体でありながら単結晶材料並みの電気伝導率、すなわち高熱伝導率を実現した。

 同様に高性能化したp型材料と組み合わせて熱電モジュールを作製。室温と320℃の温度差での熱電変換効率は、最高性能のBi2Te3系材料に匹敵する7.3%を示した。この材料の理論効率は約11%であり、さらなる高効率化も見込まれる。また、今回発見したフォノン散乱効果や粒界制御効果は、他の熱電材料の高性能化へ活用することも期待される。

 なお本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業大規模プロジェクト型技術テーマ「センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術」の支援を受けて実施された。今後、低価格で広範囲に適用可能な熱電モジュールの実用化を進めるとともに、他の温度域にも活用できる高性能熱電材料の研究開発も引き続き推進していく。