東レリサーチセンター イメージング分析で新型コロナの標的を可視化

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2021年9月16日

 東レリサーチセンターはこのほど、独自に開発した二次イオン質量分析(SIMS)用の標識体と、高空間分解能での質量イメージングが可能な国内初導入の「NanoSIMS 50L」を組み合わせることで、コロナウイルスの標的タンパク質「ACE2」の細胞レベルでの可視化に成功したと発表した。

 新型コロナウイルス感染症は、ワクチン接種が進む現在も、感染の拡大を食い止められない状況にある。その原因ウイルスが、細胞に感染する際に標的として利用しているのがACE2(アンジオテンシン変換酵素Ⅱ)。ACE2の発現分布は、抗体を利用する免疫染色法で知ることができるが、従来の方法では、組織中に残る残血の影響やイメージングの分解能が問題となり、細胞レベルでの発現分布を明らかにすることは困難だった。

 質量イメージングに利用されるSIMSは、固体表面へのイオンビーム(一次イオン)照射時に、スパッタリングにより表面から放出されるイオン(二次イオン)を検出することで、固体試料中に含まれる元素を直接検出する分析手法。特に同社がもつ「NanoSIMS 50L」は、プローブ径約50㎚のイオンビームと、透過率の高い質量分析系との併用により、質量イメージングとしては最高の空間分解能(50㎚未満)で、最大7元素の同時分析が可能。同社では、「NanoSIMS 50L」の性能を最大限に引き出すため、イオンビームで効率的に二次イオンを放出する様々な標識体の合成にも取り組んできた。

 こうした中、同社は、肺組織中のACE2の局在部位を、細胞レベルで明らかにすることに成功。独自開発した標識体修飾抗体を活用し、「NanoSIMS 50L」の性能をフルに生かすことで、ACE2の高空間分解能での可視化を実現した。今回の成果から、「NanoSIMS」と標識体をうまく組み合わせることで、同手法のライフサイエンス分野での活用の可能性が大きく広がる。

 同社では現在、動物に投与した医薬品の組織分布のみならず、タンパク質や核酸などが細胞内のどの小器官に移行するかを明らかにする、いわゆる細胞内局所イメージングを確立するために、測定系の構築を進めている。この手法は、病状の発症原因究明や薬効発現の科学的根拠の獲得に威力を発揮するばかりでなく、例えば核酸医薬品の核移行や抗体医薬品のリサイクリング評価が可能になることから、創薬研究・技術開発の確実性を高め、開発期間の短縮に貢献できると捉えている。同社は、最新の分析技術を一刻も早く医薬品開発の現場に届けることができるよう、今後も技術開発を進めていく。