産総研ほか 酵素機能の改良作業が計算科学で数百倍向上

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2021年10月21日

 産業技術総合研究所(産総研)と神戸天然物化学はこのほど、酵素反応を制御するアミノ酸部位を予測する計算手法(MSPER)を世界に先駆けて開発した。

 これにより、改変すべきアミノ酸部位の機能検証実験数は大幅に減り、目的化合物の生成率も大幅に向上した。医薬品、食品、繊維、プラスチックなどの化成品製造分野で、「酵素を利用したものづくり」は常温・常圧・水系溶媒など低環境負荷技術として注目される。

 酵素反応は、酵素と基質(原材料)が特定の複合体を形成することで化合物を生成する。しかし酵素や基質によっては他の複合体を作り副産物を生成するため、目的物の生成率は低下する。その解決には、酵素を構成する数百~数千個のアミノ酸の中から酵素機能に関与するアミノ酸部位を見つけて改変する必要があり、膨大な検証実験を要する。

 今回開発したMSPER法は、酵素・基質複合体をシミュレーション解析で再現し、それらの構造情報から副産物生成に関与するアミノ酸部位を予測する計算手法だ。産総研の分子動力学シミュレーションによる分子構造学的な酵素の機能向上・改変に関する研究を、神戸天然物化学の酵素シトクロムP450を中心とした物質生産技術に適用した。

 多数の複合体のデータから酵素を構成する各アミノ酸と基質の接触率を計算・比較し、副産物を生成する複合体で基質と接触するアミノ酸を特定。これを別のアミノ酸に変えて基質との結合を阻害し、副産物の生成を抑制する。MSPERにより、目的化合物の生成に影響が少なく副産物生成時に基質が触れるアミノ酸の接触率の順位付けをし、高い順に改変酵素を作製・評価すれば、効率的に改変酵素が得られる。

 今回、計算時間に数日~1週間程度要したが、最も時間とコストのかかる検証実験数は170分の1~1000分の1へ大幅に削減できた。また酵素P450と基質Sリモネンから2種類の香料原料を作る検証実験では、提案された6カ所のアミノ酸部位すべて目的化合物の生成率を向上させ、最大6.4倍に向上した。今後、他の酵素での有効性の検証、酵素反応の生産性向上などの高機能化に関する解析法を開発し、企業との共同研究により酵素を利用したものづくりに貢献していく考えだ。