理化学研究所 マイクロ波と光の協働で合成反応を促進

, , , ,

2021年11月26日

 理化学研究所はこのほど、東京大学と京都大学との共同研究グループが光とマイクロ波の協働的な触媒的化学合成反応系の開発に成功したと発表した。

 マイクロ波には、電子レンジに応用されているような局所的・効率的な加熱効果がある。近年、マイクロ波を照射したときにだけ観測される化学反応や反応の加速効果が数多く報告され、加熱効果とは異なる原理による「非熱的マイクロ波効果」の機構解明や応用研究を行う「マイクロ波化学」という新しい研究分野も確立されている。固体表面上の反応に関する機構は解明されつつあるが、有機単分子でのマイクロ波効果についてはほとんど知られていない。

 今回、フェニルアセチレンを光触媒とするジメチルスルホキシドの酸素酸化反応系で、有機分子に対するマイクロ波効果の観測に成功した。まず光照射により、フェニルアセチレンの基底状態S0の電子はS1準位に励起され、速やかに隣のT1準位へ移動する。このT1準位の電子は酸素分子を活性化し、この活性酸素によりジメチルスルホキシドは酸化され、牛乳や穀物などに含まれ健康食品などに使われるジメチルスルホンになる。このT1準位は3つの副準位に分かれている。

 光励起した電子のほとんどは中位のT1(2)準位に入るが、寿命が短いため酸素分子の活性化収率は低い。これらの副準位間のエネルギー差に相当する2.45㎓のマイクロ波を照射することで、電子が長寿命の副準位T1(1)、(3)に移動すれば、酸素分子の活性化収率が上がりジメチルスルホンの収率が上がることが期待される。1気圧の酸素雰囲気下、光量450㎚・30㎽/㎠、50℃、48時間反応させたときの収率は、マイクロ波ありで77%、マイクロ波なしで21%、光なしで0%、触媒なしで4%であった。この反応系では光と触媒が必須であり、マイクロ波が反応効率の向上に大きく影響していることが分かった。

 光・マイクロ波協働効果により低出力のマイクロ波で効率的に光触媒反応を促進させることが可能で、省エネルギー合成法として注目されるマイクロ波化学反応の機構解明や、新たなカーボンニュートラル合成法の開発への貢献が期待される。