宇部興産 CO2回収・資源化プロセス、NEDO事業に

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2020年9月10日

 宇部興産は9日、東京大学、大阪大学、理化学研究所、清水建設、千代田化工建設、古河電気工業と共同で提案した、「電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」プロジェクトが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択されたと発表した。

 同事業は、「ムーンショット型研究開発事業/2050年までに、地球再生に向けた持続可能な資源循環を実現」に公募したもので、委託期間は2022~2029年度の最大10年間の計画となっている。

 地球環境の保全のためには、社会活動により生じる温室効果ガス(GHG)の削減が必要であり、中でもCO2が非常に高い割合を占めている。日本は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(閣議決定)の中で、2050年までに80%のGHGの排出削減に取り組むことを宣言。GHGの削減は、緊急対策が必要な地球規模の大きな問題となっている。

 また、昨年に示された「カーボンリサイクル技術ロードマップ」(経済産業省)では、CO2を資源として捉えて有効利用する「カーボンリサイクル技術」を通して、排出量を抑制する方針が示され、革新的な技術開発が求められている。

 こうした状況下、NEDOは、ムーンショット目標4の達成を目指す研究開発プロジェクトに着手。今回、採択された委託事業では、電気化学技術を主体とし、400ppm~15%程度の幅広い濃度範囲の気体中CO2濃度に対応し、かつ分散配置が可能なCO2回収・有用化学原料への還元資源化プロセスの開発を目指す。

 具体的には、大気中に放散された希薄なCO2と放散される前のCO2を回収し、再生可能エネルギーを駆動力として電気化学的に富化/還元し、有用化学原料を生成するプロセスまでの統合システムを開発。これにより、カーボンリサイクルの基盤を構築する。共同研究者は、今回の事業採択を受け、希薄な濃度に対応可能なCO2回収・資源化に係る革新的技術を産学官の協働により開発するとともに、統合システムの実用化と普及に向けた取り組みを加速する。

 

東北大学など 水と高圧氷の界面に「新しい水」を発見

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2020年9月8日

 東北大学と北海道大学、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学はこのほど、高圧下で水が凍ってできる氷の表面に、通常の水とは混ざらない異構造・高密度の「新しい水」を発見したと発表した。水の異常物性を説明する「2種類の水」仮説の検証に新たな道を示した。

 水はありふれた存在だが、特異な物性をもつ奇妙な液体であり、多くの自然現象を支配している。たとえば雪だるまが作れるのは、0℃以下でも存在する氷表面の液体層のおかげだ。

 マイナス20℃、248M㎩の低温高圧条件で生成する氷Ⅲの、加減圧時の成長・融解過程を光学顕微鏡で観察。加圧成長時には界面に流動性の均質な液体膜が形成し、加圧を止めると不均質化して迷路のような模様になった。これは通常の水と新しい水が混ざり合わない異なる構造をもつことを示している。

 減圧融解時には活発に動く微小液滴が形成。この水は液滴の濡れ角から高密度であり、分子動力学シミュレーションからは氷Ⅲに近い構造であると考えられる。以上から、水/氷界面にはナノメートルオーダーの氷から水へ連続的に変化する液膜があるという通説に反し、マイクロメートルスケールの高密度水の液膜が存在することが明らかとなった。

 また25℃、954M㎩の常温高圧条件で結晶化する氷Ⅵ/水界面にも高密度の新しい水の生成がレーザー干渉顕微鏡で確認され、水/高圧氷界面の高密度水形成の普遍性が示された。なお、通常の氷は氷Ⅰhで六角柱状の格子構造、今回の低温高圧環境下の氷Ⅲは立方体構造、常温高圧環境下の氷Ⅵは底面が正方形の直方体構造である。

 今回の融液/結晶成長挙動の解明は、融液から機能性材料が生成する過程の解明に、さらには太陽系天体内部の高圧状態の氷から天体の形成過程の解明にも役立つと期待される。

東京大学など 「めっき」で高性能有機トランジスタを製造

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2020年9月4日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループはこのほど、「無電解めっき」による高精細パターニング金電極を有機半導体に貼り付けた高性能有機トランジスタの製造に成功した。

 有機半導体は印刷で作れるため、RFID(近接無線通信)タグや種々のセンサーなど膨大な数のデバイスを使うIoT時代に有望な基盤材料。移動度(動作速度)も実用レベルに達している。

 有機半導体の電極には、キャリア効率が高く酸化されにくい金や銀の貴金属薄膜が使われる。製造には高真空・高温/プラズマプロセスを要し、高真空チャンバーとポンプ、電極の微細パターニング用のリソグラフィーなどが必要で、高額設備投資、コスト、環境負荷が量産化の課題だった。

 今回、材質表面を金属被覆できる「めっき」のうち、薬品を用いる「無電解めっき」により真空プロセスなしで金電極を作製した。まずフッ素系高分子薄膜に真空紫外光LEDを照射し、銀微粒子インクが濡れる領域をパターニング(親液・撥液パターニング)。そこに銀微粒子インクを塗布して銀微粒子層のパターンを形成する。それを金めっき液に浸すと、銀の触媒作用で銀微粒子層表面に金の薄膜が被膜される。これでリソグラフィープロセスなしで10㎛程度の高精細パターニングが可能となった。

 この金電極を、同グループが開発した電極転写法により有機半導体上に取り付けて有機トランジスタを試作。ゲート電圧・ドレイン電流から求めた移動度は10㎠/Vs程度と実用レベルで、金属-有機半導体界面の接触抵抗も120Ωcm程度と十分に小さく、単分子層有機半導体(厚さ4㎚)の本来の性能を引き出せることを実証した。

 「無電解めっき」で、積層デバイスの大面積化が可能となり、半導体側の制約も減る。また、めっき液は基本的に有機溶媒を含まない水溶液で再利用が可能なため、環境負荷も小さい。低コスト・低環境負荷、フレキシブルエレクトロニクス用のプロセスとしての利用が見込まれる。

 今後、有機半導体を用いたソフトエレクトロニクスの社会実装やバイオエレクトロニクス分野への貢献が期待される。

 

 

DIC QII協議会の設立に合意、量子コンピューティングを実現

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2020年8月20日

 DICはこのほど、東京大学との間で、「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」の設立に合意し、設立メンバーとして参画すると発表した。

 東大が設立したQII協議会は、産官学協力の下にわが国全体のレベルアップと実現の加速化を図り、広く産業に貢献することを目的としている。量子コンピューティングを実現する日本国内の科学技術イノベーションを独自の形で集結させ、量子コンピューティングのためのエコシステムを構築することで、戦略的に重要な研究開発活動を強化する。

 DICはQII協議会の一員として、量子コンピュータの産業利用の価値を高めるため、量子コンピューティング利用分野の探索と技術の構築を行う。特に、東大と連携して、材料開発に有益な化学シミュレーションに資する技術の研究と開発に注力する。

 コンピュータを使った化学シミュレーションは、化学材料の設計や化学反応の解明に大きく貢献することが期待されるが、計算の複雑さのため利用が限られている。量子コンピュータは、そのような複雑な計算を難なく行える能力をもっており、材料開発に革新的な変革をもたらす新たな技術として期待されている。

 同社では、量子コンピュータを使った化学シミュレーションによる未来の材料開発を見据え、量子コンピューティング技術の開発とエコシステムの構築を他社に先駆け積極的に行う。そして化学シミュレーションを主軸とした革新的な材料開発体制を構築することを目指す。

 その革新的な材料開発体制の下では、実験に関わる時間とコストおよび危険が大きく削減され、安全で快適な材料開発が行われることが期待される。また、コンピュータ上では自由自在に分子を作ることができ、発想力と創造力を生かした幅の広い研究開発が可能になる。

 なお、東大が事務局を務めるQII協議会は、慶應義塾、JSR、東芝、トヨタ自動車、日本アイ・ビー・エム、日立製作所、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカル、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが参加を予定。さらに、志を同じくする参加メンバーを広く募集している。

QII協議会で目指す成果
QII協議会で目指す成果

 

ダイセル 自律型生産システムを開発、劇的なコストダウン

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2020年8月20日

 ダイセルは19日、「ダイセル式生産革新手法」を東京大学と共同で開発した人工知能(AI)によって進化させた「自律型生産システム」を開発したと発表した。

 同システムは、PCM(最適運転条件導出システム)とAPS(高度予知予測システム)の2種類のアプリケーションで構成。化学などプロセス型のモノづくり現場で取得したデータから日々学習を重ねたAIを搭載し、現場作業者を支援する。

 搭載されたAIは、過去に蓄積してきた運転ノウハウを活用するだけでなく、日々の運転の中からも新たなノウハウを自動で抽出していく。「自律型生産システム」によって生産の最適解が求められ、製造コストの劇的な削減につながり、同社の試算では年間100億円程度のコストダウンが可能としている。またAIの活用によって、2000年に完成させた従来の「ダイセル式生産革新手法」の心臓部であったノウハウ顕在化にかかる労力が大幅に低減し、導入の難易度が改善される。

 同社はすでに、「自律型生産システム」の日本国内の生産拠点への展開を開始。また、従来から行ってきた定量的な数値データに基づいた通常の運転に加え、音声や画像などの定性的なデータをも活用し、プラント運転の立ち上げ、停止など、非定常時の運転標準化を進める研究にも着手している。

 一方、「自律型生産システム」は、1つの企業での単一製品の生産の最適化だけでなく、関連する前後の企業・工程にまたがって応用でき、企業の枠を超えたサプライチェーン全体の最適化を実現する。現在、生産現場にAIを導入する一般的な取り組みは、ほとんどが個々の計器やセンサーなどの故障検知や、単一製品の品質予測など、効率化の手段の1つでしかない。しかし同システムは、モノづくりの一連の流れを標準化した「ダイセル式生産革新手法」を用いて開発しており、広範囲で生産を最適化できる。

 同社は将来的に、企業の枠を超えて、原料から最終製品に至るまでのサプライチェーン全体の最適化を目指す。そして究極的には、1つのサプライチェーンを仮想的な会社と捉え、製品の調達、生産、販売といった機能や設備を一体で管理・経営する「バーチャルカンパニー」の考え方に基づいた、効率的・即応的な市場ごとの資産コントロール体制の確立を目指していく考えだ。

:「自律型生産システム」の概要
「自律型生産システム」の概要

 

東大と三菱ケミカル サーキュラーエコノミーの実現に向け協働

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2020年8月17日

 東京大学と三菱ケミカルはこのほど、サーキュラーエコノミーの実現に向け協働していくことで合意したと発表した。

 東大の未来ビジョン研究センターが8月1日付で新設した「グローバル・コモンズ・センター(CCC)」の活動に対し、三菱ケミカルが寄附を行うとともに、資源の循環・有効活用の観点で素材産業が目指すべきビジネスモデルなどについて、CCCと三菱ケミカルとで共同研究を開始する。なお、CCCのダイレクターである石井菜穂子氏は、三菱ケミカルのシニア・エグゼクティブ・フェローに就任した。

 グローバル・コモンズとは人類の持続的発展の共通基盤である地球環境システムのことを指す。CCCでは、地球環境システムの持続可能性を確保するため、社会・経済システムの根本的転換のモデルと道筋を科学的に示すことを目標としている。また、企業などと連携しながら、転換の具体的なあり様と実現経路を研究し、その実現を国際的な連携の中で促すことを目指す。

 三菱ケミカルは今年4月に「サーキュラーエコノミー推進部」を設置。同部のイニシアティブにより、グローバルな視点・規模で、事業部門の枠を超え、サーキュラーエコノミーに関連するソリューションの提案と事業化を推進し、取引先、アカデミアやスタートアップなどとの連携も積極的に進めている。

 三菱ケミカルは、豊かで持続可能な社会を目指し、その基盤である安定した地球環境を保全するというCCCのミッションに賛同し、その活動を支援することを決定。同時に、両者はCCCの活動の一環として、資源の循環・有効活用が、社会に幅広い素材を提供する化学産業のビジネスモデルとしてどのようにあるべきかなどにつき、共同研究を行うべく協議をしている。

 両者は、これらの活動を通じ、それぞれの立場から、持続可能な社会・経済システムの構築に向け貢献していく。

DNPと東京大学 スキンディスプレイのフルカラー化に成功

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2020年7月16日

 大日本印刷(DNP)と東京大学の染谷隆夫教授の研究チームは、独自の伸縮性ハイブリッド電子実装技術を進化させ、薄型で伸縮自在なフルカラーのスキンディスプレイと駆動・通信回路および電源を一体化した表示デバイスの製造に成功した。

 薄型で伸縮自在なフルカラースキンディスプレイ。
薄型で伸縮自在なフルカラースキンディスプレイ。

 同装置は、皮膚上に貼り付けたディスプレイに外部から送られた画像メッセージを表示できるコミュニケーションシステム。人に優しいスキンエレクトロニクスによって、スマートフォンやタブレット端末よりも情報への利用しやすさが大幅に向上し、子どもから高齢者まで、全世代のQOL向上への貢献が期待される。

 ウィズコロナ・アフターコロナの社会では、距離を隔てた状況でのコミュニケーションのあり方が重要になる。相手を身近に感じる効果を期待し、体表に近いところで情報を見たり、センシングしたりできる技術として、スキンセンサーやスキンディスプレイの開発が進められている。

 今回の研究のポイントとして、①曲面形状に追従できる伸縮性ハイブリッド電子実装技術で使用できる部品の選択肢が広がり実用化に目途。スキンディスプレイの表現力を高めるフルカラー化に成功した。②配線の信頼性を向上し、駆動・通信回路や電源も一体化したことで、様々なものに簡易に貼り付け可能。③遠隔コミュニケーションでの感情伝達を補う効果として、今までにない姿の応援メッセージを送るなど、情報伝達の利便性を発揮できる、などが挙げられる。

 両者は今後、これらの体表面に近いところで表示するセンシングデバイスのコミュニケ―ションに与える効果について検証する研究も継続。またDNPは、間もなくスキンエレクトロニクスの実用化検証を開始する予定だ。

日板硝子 抗ウイルスガラス「ウイルスクリーン」簡易衝立キットを開発

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2020年7月10日

 日本板硝子はこのほど、光触媒技術を活用した抗ウイルスガラス「ウイルスクリーン」を使った簡易衝立キットを開発したと発表した。

 ウイルスクリーン簡易衝立キット
ウイルスクリーン簡易衝立キット

 「ウイルスクリーン」は銅系化合物と酸化チタン光触媒を組み合わせた抗ウイルスガラス製品で、ガラスに付着したウイルスの活性を低減させる。商業施設のレジカウンターなどでの利用を想定した組み立て式の簡易衝立キットで、サイズは2種類、9月ごろ発売の予定。「ウイルスクリーン」は「抗ウイルス」が求められる病院や公共施設などへ提供してきたが、「新しい生活様式」では商業施設、ホテル、幼稚園、工場など様々な施設でもウイルス対策が求められている。

 今回発売の「簡易衝立キット」は、レジカウンターなどでの飛沫感染防止を想定し、客側に抗ウイルス膜、店員側に飛散防止フィルムを貼り付けたもの。抗ウイルス膜は、銅系化合物(抗菌・抗ウイルス効果)を酸化チタン光触媒膜(有機物の分解)にスパッタリングした複合膜。銅系化合物の抗ウイルス効果が弱まっても、光触媒機能により効果が回復する。

 また光触媒は、蛍光灯やLED照明対応の「可視光応答型」である。ものに付着した細菌やウイルスは一般的に12~24時間生存すると言わるが、「ウイルスクリーン」は、ガラス面に付着したウイルスを室内照明下約60分で99%以上減少させる。一般的なアクリルや塩ビと比べ、耐久性(耐UV、変色)、美観(透過性、視認性)、メンテナンス(消毒不要)の点で優れている。

 同社は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのレジカウンターで、感染を気にすることなく買い物ができる「新たな生活様式」が生まれることを期待している。なお、「ウイルスクリーン」は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」で東京大学との共同研究から生まれたもの。

 

産総研 抗体の高次構造の完全・非破壊的解析技術を開発

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2020年7月1日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、東京大学、中外製薬と、抗体の高次構造(HOS)情報を、製剤条件・低温保存温度で非破壊的に取得できる独自のNMR測定技術を開発したと発表した。

 バイオ医薬の躍進に伴い、その薬効や安全性をHOSに基づいて評価することが求められ、溶液中の抗体タンパク質のHOSの適切性や、熱劣化していないことの確認が必要となる。しかし、抗体などの高分子量バイオ医薬のHOS情報を、溶液組成や測定温度に制約されずに、非破壊的に取得する技術はなかった。産総研が昨年開発した「FC‐TROSY法」により、分子量15万超の抗体の非破壊観測は可能となったが、芳香族アミノ酸の観察に限られる上、フッ素核導入によるタンパク質のHOS変化もゼロではない。

 今回開発した「窒素核観測CRINEPT法(N‐CRINEPT法、窒素15直接観測と交差緩和による低感度核の感度増強法)」は、安定同位体「窒素15」標識をアミド部分に施す必要があるが、フッ素導入は不要でありフッ素によるHOS変化の恐れはない。そしてプロリンを除くすべてのアミノ酸残基由来の信号を取得できる。

 また、分子量15万超のタンパク質のNMR解析に必要であった重水素化が不要となり、重水素化が困難な新型コロナウイルス(SARS‐CoV‐2)の表面タンパク質などの大きな膜タンパク質の解析も可能となった。これにより、HOS情報の網羅性改善と完全非破壊性を実現し、製剤保存条件でのありのままの抗体分子のHOS情報を取得できるようになった。またNMR法で解析可能なタンパク質の数が飛躍的に増えたことにより、抗体医薬の研究開発への貢献が期待される。

 今後は、「N‐CRINEPT法」を研究・開発段階の抗体医薬に適用するなど、社会実装を進める。また、NMR法を用いた創薬支援基盤技術をさらに発展させ、バイオ医薬に限らず低分子、中分子など多様な医薬に対応できる創薬基盤技術プラットホームを構築していく考えだ。

 

NEDO 人工光合成、収率ほぼ100%の光触媒開発

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2020年6月12日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、三菱ケミカルや三井化学などが参画する人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)はこのほど、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発した。信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究によるもの。これまでの光触媒では量子収率が50%に達するものはほとんどなく、画期的な成果といえる。

 ソーラー水素の実用化に向けた大幅なコスト削減には、太陽光エネルギーの変換効率向上が必要だ。そこには、利用光の波長範囲を広げることと、各波長での量子収率を高めることの2つの要素がある。前者は光触媒のバンドギャップ(電子励起に必要なエネルギー)の幅がカギになり、後者は触媒調製法や助触媒との組み合わせで決まる。今回は後者に注力し、ほぼ100%の量子収率を達成するとともに、触媒の構造・機能・調製方法などを明らかにした。

 代表的な酸化物光触媒SrTiO3(Alドープ)を、フラックス法により2種の結晶面を持つ粒子にすると、光で励起された電子と正孔が各結晶面に選択的に移動する異方的電荷移動という現象が起こる。この特性を利用して、各結晶面に水素生成助触媒(Rh/Cr2O3)と酸素生成助触媒(CoOOH)を光電着法により選択的に担持した。

 その結果、光励起した電子と正孔は再結合せずに各助触媒に選択的に移動するため、吸収光のほぼ全てを水分解反応に利用することに成功した。光励起された電子と正孔の一方通行移動は植物の光合成で行われているが、複雑なタンパク質構造によるため、人工的な再現は非現実的だった。今回の光触媒の構造は簡易であり、高活性光触媒の設計指針となる。

 今回は紫外光しか吸収しないため、降り注ぐ太陽光エネルギーの一部しか利用できない。可視光を吸収するバンドギャップの小さな光触媒に応用することで、太陽エネルギーの利用度は上がる。バンドギャップの小さな化合物での水分解にはさらに高度な触媒性能が求められるが、今回の触媒設計指針を応用することにより、製造プラントの省スペース化や製造コストの低減が期待される。

 NEDOらは、引き続き光エネルギー変換効率の向上を進め、人工光合成技術の早期実現を目指していく考えだ。