東レ ナノアロイ技術で新規ポリマー材料を創出

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2021年1月22日

PAの特性と疲労耐久性を両立、用途拡大を期待

 東レは、ポリアミド6(PA6樹脂)がもつ高い耐熱性や剛性、強度を維持しながら、繰り返し折り曲げ疲労耐久性を従来の15倍まで飛躍的に高めた新規ポリマー材料を創出した。開発品は自動車、家電製品、スポーツ用品といった疲労耐久性が必要な用途に広く展開が期待できる。2021年度から本格的なサンプルワークを開始し、顧客ニーズに合わせた改良などを進め、2023年度からの市場参入を目指していく考えだ。 

新規ポリマー材料 折り曲げ疲労耐久性を向上
新規ポリマー材料 折り曲げ疲労耐久性を向上

 PA6樹脂は、優れた特性から自動車のエンジンルーム内部品や、家電製品の筐体などに多く使用されている。PA6樹脂に疲労耐久性を付与するには柔軟なエラストマーを配合するが、PA6の特性である耐熱性、剛性、強度が低下するといったトレードオフの関係があった。

 こうした中、東レは、外力が加わった際に可動可能な構造をもつポリマーとして、分子結合部がスライドするポリロタキサンに着目。ポリロタキサンをPA6樹脂中に均質に微分散化することで、PA6樹脂の特性と疲労耐久性の両立する新規ポリマーの開発を目指した。

 独自のナノテクノロジーである「ナノアロイ」による精密アロイ制御技術を駆使し、PA6樹脂中に、ポリロタキサンを最大限の効果発現が期待できるPA6結晶構造サイズの数十㎚に微分散化することに成功。このしなやかな応力分散機構により、繰り返し折り曲げ疲労試験では、PAは屈曲回数2千回で破断するのに対し、開発材料は15倍の3万回と疲労耐久性が大幅に向上した。開発品は、理化学研究所が所有する高輝度放射光X線(SPring-8)による試験で、外力を受けた際にPA6樹脂の結晶構造変化が抑えられることを確認している。

 

しなやかタフポリマー PA6 樹脂中に微分散化したポリロタキサン
しなやかタフポリマー PA6 樹脂中に微分散化したポリロタキサン

 なお、同技術は内閣府が2014~2018年に進めていたImpact(革新的研究開発推進プログラム)の「しなやかなタフポリマー」プロジェクトで開発。プロジェクト終了後に、東レが実用化に向けた研究開発を進めていた。Impactでの成果では、100㎚の微分散化が可能であったが、同社の極限追求により、10㎚の微分散化を実現している。

 東レは今後、樹脂化が難しかった自動車部材をはじめ、家電製品、スポーツ用品など疲労耐久性が必要な用途への展開を進めるとともに、繰り返し折り曲げが要求される部材などの新規用途開拓を推進していく。さらに、今回の技術をPA6樹脂以外の樹脂にも展開し、顧客の要求特性を満たすポリマーの開発に注力していく考えだ。