産総研 マイクロ波を偏波ごとに高速高解像度で可視化

,

2021年2月15日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、マイクロ波を偏波ごとに可視化するマイクロ波偏波分離イメージング技術を開発したと発表した。電磁波の振動方向を表す偏波の特性を利用すると、信号の分離や干渉の抑制が可能になる上、多角的空間情報が加わり探査や解析を深化できる。

 高周波回路やアンテナの製造、高周波デバイスの放射試験、レーダー探査、食品やインフラ設備の非破壊検査などでは、マイクロ波の空間分布を偏波ごとに測定し可視化するニーズがあるが、測定時間や解像度などに課題があった。産総研は原子の二重共鳴現象(2つの電磁波を2段階で吸収)を使い、マイクロ波を蛍光に変換して可視化する技術を開発してきた。

 セシウム(Cs)原子の場合、マイクロ波(9㎓)で電子を上位の基底状態に上げ、その電子だけを特定波長の近赤外レーザー(352㎔)で励起させると、基底状態に戻るときに蛍光(波長852㎚)を放射。それをCCDカメラで撮影すると、マイクロ波の強度分布を画像化できる。Cs原子は静磁場をかけると強さに応じて原子の向きが揃う。向きにより共鳴するマイクロ波の偏波と周波数は異なるため、周波数を精密に制御すると静磁場に平行な偏波だけを吸収し可視化できる。

 今回この原理を実証するために、気体状Cs原子を封入したガラスセルをマイクロ波発生のマイクロストリップライン上に配置し、上から高感度近赤外線カメラで蛍光を観測。周囲の三軸コイルで静磁場の方向と強さを制御し残留磁場や地磁気の影響をキャンセルし、鏡の角度変調でレーザーを広範囲に均一に照射しセル全面の可視化像を得た。定在波を反映した複雑な明暗模様が現れ、偏波ごとの定在波模様の差をよく示した。原子の種類やエネルギー状態、静磁場の強さと方向、レーザー波長などの精密な制御で㎑~㎔帯の広範な周波数に適用できれば、5G/6G対応の様々な電子部品の電磁波分布測定、室内や車内の電磁波散乱測定へ応用できる。

 今後は、静磁場の強度やCs原子のエネルギー準位を適切に選び、他の周波数への応用も目指す。またレーザーの立体的照射により、マイクロ波強度分布の立体的な可視化にも取り組む考えだ。