神戸大学など スマートセルで医薬品原料の生産向上に成功

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2019年5月28日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と神戸大学、石川県立大学はこのほど、計算機シミュレーションを用いて微生物の代謝経路と酵素を新しく設計し、医薬品原料の生産性を2倍以上に向上させることに成功した。

 同技術をさまざまなターゲット化合物に応用すれば、既存の手法では生産が難しい有用物質の生産が可能となり、生物機能を活用して高機能な化学品や医薬品などを生産する次世代産業「スマートセルインダストリー」創出が期待される。

 鎮痛薬などの医薬品原料として利用されているベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)は従来、植物からの抽出によって生産されているが、効率面やコスト面での課題がある。近年、大腸菌での生産研究が報告されているものの、生産量が低く実用化に向けては生産性の向上が求められていた。

 これまでの研究から、BIAの前駆体化合物テトラヒドロパパベロリン(THP)を細胞内で生成させる酵素の活性が弱いことが分かっており、このボトルネックの解消がカギとなっていた。

 NEDOと神戸大学、石川県立大学の共同チームは、京都大学の荒木教授が開発したバイオインフォマティクス(生命情報科学)技術による代謝設計ツール「M‐path」を用い、ボトルネックとなる代謝経路をショートカットするとともにBIAの生産性向上に寄与する新規の代謝経路を設計。

 同時に、新規ショートカット経路を構成する酵素を自然界から探索し、構造シミュレーションを活用してアミノ酸配列を改変することで、新規経路だけでなく従来経路もバランスよく併せもつ酵素の作出に成功した。

 さらに、設計した代謝経路と酵素に関連する遺伝子を大腸菌に導入して検証試験を行い、菌内でも両方の代謝経路が効率よく機能し、BIA生合成の代謝中間体であるTHPの生産量を2倍以上増大させることを確認。微生物発酵法によるBIA生産の実現可能性を示唆するものとなった。

 また、生産菌のメタボローム解析を行った結果、生産性のさらなる向上につながる代謝ルールを発見しており、実用化への期待が高まっている。