産総研 透過光量を抑制する液晶材料の熱安定性を向上

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2021年9月10日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、神戸市立工業高等専門学校(神戸高専)、大阪有機化学工業と共同で、透明と白濁の切り換え繰り返しで高い耐久性をもつ液晶と高分子の複合材料を開発したと発表した。液晶と異方構造を有する高分子(異方性高分子)の複合材料は、生活温度付近で、低温で透明、高温で白濁に切り換わる機能をもち、調光ガラスなどへの応用が期待されている。

 近年、建物や移動体の省エネ化とユーザーの快適性の両立が着目され、有用な部材の開発が進んでいる。窓は太陽光を取り込むために必須である反面、太陽熱は冷暖房負荷や快適性に大きく影響する。調光ガラスは、太陽光の入射量を制御する部材で、様々な方式が提案されてきた。例えば、電気や雰囲気ガスで動作させるタイプは、ユーザーが切り換えたり自動化したりできる点で利便性が高く、特に電気方式はすでに上市されている。しかし、施工時の配線など設置条件や導入・運用費用にまだ課題が残る。それに対し、熱応答型は電源を必要とせず、施工後の後張りや必要に応じて剥がすといった取り扱いの容易さなどで有利な面がある。

 産総研は、多様なニーズに応えるため、電気、ガス、温度に応じて光の反射、吸収、透過が変わる様々な調光ガラスの開発を進め、それぞれの特徴を生かした提案を行ってきた。こうした中、3者は共同で、可視光の直進透過率を80%以上かつ太陽光の透過率を20以上制御する熱応答型の調光材料を2019年に開発。透明/白濁の繰り返し耐久性に課題があったが、今回、異方性高分子を架橋剤で網目構造化したことで、材料の熱安定性が高まり、繰り返し耐久性が大幅に向上。窓ガラスのメンテナンス保証期間(10年程度)に相当する回数で温度変化を繰り返しても持ちこたえる耐久性向上を達成し、実用化のめどがついた。次の段階では、耐久性と並ぶ実用化の課題であるコスト削減に着手する。

 一方、ガラス基板を用いた調光ガラスは、新築建物などの窓ガラス施工時の導入が想定される。国内にはすでに窓が設置された既築物件が多くあり、同技術を普及させるため、今後、後張りできる柔軟性のある透明基材による調光フィルムの開発に取り組む考えだ。