NIMSと産総研 エチレン高感度・高選択モニタリング

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2020年5月26日

 物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、植物ホルモンであるエチレンを常時モニタリングできる小型センサを開発した。

 エチレンは野菜や果物の熟成を促進させるが、過剰にあると腐敗を進行させてしまう。同センサによってエチレンを常時モニタリングすることで、野菜や果物の最適な輸送・保存管理が可能となり、食べ頃の調整やフードロスの削減などが期待される。

 現在市販されているエチレン検出用小型センサの多くは、高温状態(200~300℃)での駆動が必要であるため、センサ表面の活性は高く、アルコールやメタンといった他の還元性ガス分子とも反応してしまい、エチレンの選択的な検出が難しかった。

 同センサは、①エチレンを選択的にアセトアルデヒドに変換する高活性触媒(Pd‐V2O5‐TiO2)、②アセトアルデヒドと反応して酸性ガス(HCl)を発生する試薬(Wacker反応)、③酸性ガスを高感度に検出する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)修飾の電極、の3要素からなり、エチレンを選択的かつ繰り返し高感度で検出することに成功した。

 高活性触媒は、エチレンを含む空気を通過させるだけで㏙レベルのエチレンをほぼ全てアセトアルデヒドに変換でき、繰り返し利用可能。低温(40℃)で駆動するため、低消費電力である点でも小型センサに適している。

 発生した酸性ガスは、半導体SWCNTから電子を引き抜き、電気抵抗値を変化させる。その感度は、1㏙のエチレンに対して電流変化率約10%と世界最高レベルであり、わずか0.1㏙のエチレンを高選択的にモニタリングできる。

 例えば、バナナとキウイフルーツの熟成(追熟)に用いられるエチレンの濃度は、それぞれ約500㏙と約10㏙なので、同センサで十分に対応可能。また、産総研の持つ半導体SWCNTの分離精製技術により、わずか1gのSWCNTから数100万個のセンサが作製できる。高活性触媒に含まれるパラジウム(Pd)も、1センサ当たり0.8㎎程度なので、コストは10円以下である。

 同エチレンセンサは小型、省電力であり、情報(ビックデータ)を集積・ネットワーク化するセンサデバイスを低コストで設置可能。農業・食品業界のSociety5.0実現への取り組みを推進する。さらに、別の高活性触媒を設計し、エチレン以外のガス分子に対応する小型センサの開発も進める考えだ。