東京農工大学など 加工性に優れた木材つくる桑の仕組みを解明

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2020年3月11日

 東京農工大学をはじめとする国内外の機関から成る研究グループはこのほど、大正時代に奥尻島で発見された桑の野生種である赤材桑(せきざいそう)が、鮮やかな赤い色の木材をつくる仕組みを解明した。

 この木材は色が赤いだけでなく、通常の樹木がつくる木材よりも成分の分離が容易で、化学パルプや燃料、化成品の製造に適している。今回の成果により、桑の木材に新しい利用の道が開かれるとともに、他の樹種への応用も期待される。

 研究を行ったのは、東京農工大大学院農学研究院生物システム科学部門の梶田真也教授のほか、農業・食品産業技術総合研究機構、産業技術総合研究所、森林研究・整備機構、米・ウィスコンシン大学、ベルギー・ゲント大学。

 最初に赤材桑と普通の桑の木材の分解産物を調査した結果、赤材桑からはインデン骨格を持った特殊な化合物が検出された。この化合物は、桑の木材に20%程度含まれる芳香族高分子リグニンに由来する。

 そこで、赤材桑からリグニンを単離して分子構造を調べたところ、赤材桑のリグニンには、インデンの元になる多量のケイ皮アルデヒド類が取り込まれていた。

 次に、研究グループはリグニンの合成に関与する、シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)遺伝子の全塩基配列を決定したところ、通常品種では正常なCAD遺伝子が、赤材桑では一塩基の挿入によって完全に壊れていた。

 通常品種では、CADの働きによりケイ皮アルコール類が合成され、これが重合することでリグニンが生成する。しかし、赤材桑ではCAD遺伝子が破壊されているため、十分な量のケイ皮アルコール類が合成できず、その代替としてケイ皮アルデヒド類が重合することにより、リグニンの構造が変化することが判明した。

 ケイ皮アルデヒド類のリグニンへの取り込みは、塩基性条件下でのリグニンの分解性を高め、その後の酵素処理による木材からの単糖の回収率(糖化率)向上に寄与することが期待される。実際にアルカリ溶液で前処理した木粉をセルラーゼで加水分解したところ、期待通り赤材桑の木材では糖化率が格段に向上した。

 現在、化石資源の一部を代替するため、木材から燃料や化成品を製造する技術の開発が世界中で進められているものの、木材からの効率的なリグニンの除去が大きな技術課題となっている。リグニンが取り除きやすい木材を蓄積する赤材桑をさらに詳しく調べることは、桑だけでなく、他の樹種の木材の用途拡大にも貢献すると考えられる。