理化学研究所など 迅速な自己修復性ポリマーの開発に成功

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2021年12月10日

 理化学研究所と大分大学の共同研究チームはこのほど、2種類の極性オレフィンとエチレンの精密三元共重合により迅速な自己修復性能を示すポリマーの創製に成功した。

 従来の自己修復性材料は、水素結合やイオン相互作用などを利用するため、水や酸などで壊れやすく、自然環境下ではほとんど機能しない。同グループは以前、独自の希土類触媒により、優れた自己修復性能を示すエチレンとアニシルプロピレン類の二元共重合ポリマーを開発。アニシルプロピレン上の置換基が物性や自己修復性に影響するため、今回、置換基の異なる二種類のアニシルプロピレン(ヘキシルアニシルプロピレン、メトキシアリールプロピレン)とエチレンとの三元共重合に取り組んだ。

 スカンジウム触媒・エチレン一気圧の条件下、一段階で高分子量ポリオレフィンとなり、伸び率約1400%、破断強度約3M㎩のエラストマー物性を示した。構造解析と物性測定の結果、「ヘキシルアニシルプロピレン・エチレン」交互ユニットが柔軟成分、「エチレン・エチレン」の固い結晶ユニットと「メトキシアリールプロピレン・エチレン」交互ユニットが物理的架橋点として働く、三元共重合体であることが分かった。

 切断面をくっつけると、これら架橋点が分子間相互作用で再凝集して自己修復する。大気中では5分で引っ張り強度が97%回復し、対応する二元共重合体の5日間に比べて大幅に短縮した。水や酸、アルカリ性水溶液中でも、48時間程度で自己修復した。ヘキシル基の導入で柔軟成分が動きやすくなり、メトキシアリール基の導入で架橋点が増えたためであると考えられる。また、2種類のアニシルプロピレン類の組成比を変えることで、ガラス転移点をマイナス31℃~98℃の任意の温度で制御できた。

 今回の成果は、今後の自己修復性材料の設計・開発に重要な指針を与えるものだ。このポリマー合成は簡便で、置換基の種類やモノマー組成比によって熱物性・機械物性を制御できるため、様々な環境下で自己修復し、実用性の高い新規機能性材料の開発への貢献が期待される。