産総研 ポータブルなエチレンセンサーの試作機を開発

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2021年10月5日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、物質・材料研究機構と共同で、植物ホルモンの1つであるエチレンを選択的に検出する試作機を開発した。

 ポータブルで、簡単な操作により、青果物(野菜や果物)の品質管理で鍵となるエチレンガスの濃度を貯蔵や物流時に容易に測定できる。青果物は収穫後も呼吸を続け、様々な植物ホルモンを発生させる。

 気体状のエチレンは、青果物の成熟や老化を促進する作用がある。発生量と作用の大きさは青果物の種類により異なるため、エチレン濃度のモニタリングは、倉庫内での貯蔵や果実の追熟による出荷時期調整において、食べごろの提示やフードロス削減に直結し重要である。しかし、エチレンを選択的に計測できる小型・安価なセンサー装置はなかった。

 両者は、エチレンをパラジウム触媒でアセトアルデヒドに変換し、アミン塩試薬と反応させて発生した塩酸ガスによりカーボンナノチューブ(CNT)センサーの抵抗値が下がる原理を使い、参照センサーと検出センサーの電位差でエチレン濃度を測定する方法を開発。しかし、既存のセンサーでは共存ガスの影響で誤検知が起こる場合があり、操作には専門技術や研究用計測器を必要とした。

 今回、両センサーの前にエチレンに不活性な触媒層を設け、共存ガスの外乱による影響をキャンセルした後、検出センサーの触媒層をパラジウム触媒層に切り替えて測定することで、エチレンの確実な検出が可能となった。ユーザーによる正面パネルの簡単な操作で測定でき、エチレンの検出下限は0.2㏙程度、上限は100㏙程度だ。

 今後、同試作機を企業へレンタルして実地検証を進め、早期の社会実装を目指す。また定期的な校正を不要とするよう、センサー材料の長期安定改良を継続する。

産総研など 限定的・偏向的データから新材料組成を予想

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2021年8月30日

 産業技術総合研究所(産総研)と北陸先端科学技術大学院大学、物質・材料研究機構、HPCシステムズ、仏コンピエーニュ工科大学の共同チームはこのほど、証拠理論を使ったデータ駆動型アプローチによる新材料推薦システムを開発し、ハイエントロピー合金(多元素組成の合金)の実験検証により、新たな単相合金薄膜材料の合成に成功した。

 材料研究の短期化とコスト削減は急務だ。データから価値を引き出すデータ駆動型材料開発手法が注目されるが、膨大な数の成分組み合わせ数に比べ、理論計算や実験評価数は少ないことが問題だ。実験条件や計算手法の違いで、一貫性がある解釈の難しい結果を含んだり報告データは成功例に偏るなど、データの限定性や偏向性のため、得られた結果の精度や信頼性の定量的評価が困難で、少ない実験数で効率的に作製条件や組成を決める上での障害となっている。

 今回採用した証拠理論は、ベイズ統計を一般化したものでデータの不確かさを評価でき、合金生成が可能な全ての組み合わせの一部または不完全なデータをもとに、組成を推定できる。複数のデータ源から未知の組成が存在する可能性を示す手がかりを集め、その証拠をモデル化・収集・結合して生成可能な新規組成を推薦する手法を開発。

 鉄・コバルト・マンガンと第四元素Rを含む新規ハイエントロピー合金について、スパッタリング法でRの組成が少しずつ異なる薄膜を作製し、組成と結晶構造の関係を系統的にデータベースとして取得。その関係性を効率的に検証することで、同手法で推奨された材料候補群から、これまで知られていなかった体心立方構造の鉄・コバルト・マンガン・ニッケル薄膜の合成に初めて成功した。

 また、試行回数を既存の機械学習による推薦方法の100分の1以下に低減できた。これにより、関連性が明確ではないデータ群から、材料組成が関係し説明可能で合理性があるデータの関連性を抽出し新たに有効なデータ群を構築することで、新材料の提案と合成を実現した。

NEDO 航空機エンジン向け合金開発と材料DBの構築

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2021年6月10日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、航空機エンジン用国産材料の競争力強化に向け、革新的な合金開発と材料データベースの構築を行う2件の研究開発事業に着手した。

 CO2排出量削減に向け、低燃費・高性能の航空機が求められている。その中で、航空機エンジンには高い安全性や品質保証体系、航空当局の認証管理などが要求されることから、欧米企業を中心とした寡占状態にある。日本の航空機エンジン産業は国際共同開発への参画を通じて事業規模を拡大してきたが、さらなる拡大には技術革新による優位性を維持し、設計段階から開発に携わる戦略的パートナーとなることが不可欠だ。

 今回、航空機エンジン用材料開発のための「革新的合金探索手法の開発」と、国産材料の競争力強化のための「航空機エンジン用評価システム基盤整備」事業に着手。高温・高圧環境に耐え、軽量で耐熱性、耐摩耗性、熱伝導性、導電性などに優れる合金の開発には、金属元素の組み合わせとプロセス条件決定のための膨大な実験が必要で、天文学的な時間がかかる。そこで合金探索に必要な良質のデータを大量かつ高速に収集し、マテリアルズ・インフォマティクスによるデータ駆動型合金探索手法を開発し、航空機エンジンへの適用可能性を模索する。

 一方、航空機エンジンには材料段階から厳しい認証基準などがある。国産材料の競争力を高め、材料データを効率的に得るために、関連企業や研究機関などと連携してデータベースを整備し、それに基づいて実際に部材を製造し性能評価試験などを行う。

 参加企業・機関はJX金属、IHI、川崎重工業、三菱重工航空エンジン、本田技術研究所、三菱パワー、産業技術総合研究所、金属系材料研究開発センター、物質・材料研究機構、筑波大学で、プロジェックトリーダーは東京大学大学院工学系研究科の榎学教授が務める。新合金を開発し、認証取得に必要なデータベースを構築し、航空機エンジンへの適用と日本の航空機エンジン産業の国際競争力強化を目指す。新合金による軽量化とエンジン高効率化による燃費改善で、2040年に約93万tのCO2排出量削減が期待される。

東大など 電性高分子・ドーパント共結晶で高伝導達成

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2021年5月28日

 東京大学と物質・材料研究機構、科学技術振興機構(JST)、産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループはこのほど、独自開発した強力な酸化力をもつラジカル塩ドーパントと高分子半導体により共結晶構造を自発的に形成させ、従来以上の高い結晶性と伝導特性をもつ導電性高分子を開発したと発表した。

 高分子半導体は溶液を塗って乾かすだけで製膜でき、次世代エレクトロニクス材料として注目される。高分子半導体を導電性材料として使うには、ドーピング処理で電荷を注入し、電気伝導特性を向上させる必要がある。

 通常は、高分子半導体と酸化還元反応するドーパント分子を高分子膜に導入するが、ドーパント分子は陰イオンとして高分子膜内部にランダムに残るため結晶性を損ない、伝導特性に影響してしまう。結晶性構造を壊さずにドーパント分子を導入する手法を以前開発したが、ドーパント分子の立体的配置は不明瞭で、そのランダムさが電気伝導特性を制限している可能性があった。

 今回、より酸化力の強いラジカル塩ドーパントを開発。その溶液に高分子半導体の薄膜を浸漬したところドーピング量は非常に多く、X線回折分析により、高分子半導体とドーパント分子1対1による共結晶構造の形成を確認。ドーパント分子の位置を0.5㎚程度の精度で決定した。強力な酸化反応により、ドーパント分子が高分子半導体結晶にあるナノメートルスケールの周期的な空隙に入り、自発的に均質な密度で配列したと考えられる。一般的に通常の高分子膜の構造は乱れているが、今回は薄膜全体に配向性の高い共結晶構造が形成し、電気伝導度が高く白金などの貴金属に匹敵する高い仕事関数を示した。

 さらに、ドーパント分子種の最適化により、大気安定性も向上した。電気伝導特性は共結晶性領域に由来する金属的な伝導が支配的だが、今回の研究により、ミクロな共結晶構造の設計でマクロな電気伝導度の制御が可能であることが示唆された。様々な分子性イオンを充填・配列化した高分子半導体薄膜を大面積で容易に形成できるため、今後様々な機能性電子・イオン材料としての研究が進展することが期待される。

東大など ナノスケール凹凸ガラスで耐熱・超親水性実現

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2021年4月19日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構の共同研究グループはこのほど、ナノメートルスケールの凹凸を施した「ナノすりガラス」を開発した。超親水性を150℃で1日程度維持でき、高温での印刷が必要な有機半導体でも、良質な単結晶薄膜を大面積製造することが可能となった。

 有機半導体は印刷により高品質な結晶性薄膜を得られるが、そのためには半導体インクが均質に漏れ拡がる親水性の基板が必要だ。親水性は水の濡れやすさを指し、親水性が高いと表面に付いた水が薄く拡がって膜状になる。一般的に、親水性表面は親水性化学種・化合物コーティング、UV光照射、プラズマ処理などにより得られるが、汚損により親水性は低下し、継続的な維持は困難だ。

 今回、物質表面のわずかな凹凸と表面の濡れ性の関係に着目し、一般的なガラスの表面を弱酸性の炭酸水素ナトリウム水溶液、80℃で処理し、ナノメートルスケールの凹凸(1㎚程度)を形成。マイクロメートルスケールの凹凸機械加工の「すりガラス」に対し、「ナノすりガラス」と命名した。表面の水接触角は3度以下の超親水性を示し、150℃の高温下で1日程度維持した。

一般的な親水性処理では熱などで表面化学種が劣化するが、ナノすりガラスは表面の凹凸構造による親水性のため、熱による親水性の劣化は少ない。今回、150℃でのインク印刷で、n型有機半導体薄膜を1㎝角以上の大面積(従来法の約50倍)で製造することに成功した。できた半導体膜を転写法でデバイスにし電気的特性を評価したところ、優れた電子輸送性能を示すことが確認できた。

 超親水性ナノすりガラスは低環境負荷なプロセスで製造でき、表面平滑性に優れ、十分な透明性をもつ。低コスト・フレキシブルエレクトロニクス用の基板に利用するほか、親水性表面による高い防汚性を生かした水アカ防止など、様々な分野での利用が期待される。

旭化成 清酒の「におい」で品質管理、ICT活用を検証

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2020年4月22日

 旭化成は21日、清酒の「におい」データからアルコール度数を推定・可視化する実証実験を行うと発表した。清酒の製造販売を行う吉乃川(新潟県長岡市)、物質・材料研究機構(NIMS:茨城県つくば市)、NTT東日本・新潟支店(新潟県新潟市)が参画し、来月下旬をめどに実施。清酒製造時の「におい」をデータ化し、ICT(情報通信技術)を活用したデータ分析により、清酒事業者の業務低減や清酒の品質向上に取り組んでいく考えだ。

タンク上部に設置した「におい」センサー
タンク上部に設置した「におい」センサー

 第1弾となる今回の実証実験は、清酒を発酵させるタンクの上部に「におい」センサーを取り付け、24時間タンク内の「におい」を収集し、データ化。そのデータを分析することでアルコール度数を推定し、可視化する。

 「におい」データの状況とアルコール度数は、通信ネットワークを介して遠隔地でも確認できるようにし、作業効率化と品質の安定化を図っていく。測定時に蓋の開け閉めや、計測のための抽出作業を行う必要がないため、衛生環境を維持できる特長がある。加えて、取得した「におい」データから、アルコール度数以外の各種成分の含有状況や発酵時の「におい」の変化などを分析することで、清酒の発酵具合や品質のモニタリング、その他「におい」データから得られる価値を検証する取り組みも、併せて実施する。

 吉乃川では高品質な清酒を製造するため、発酵過程での温度やアルコール度数などの各種主要成分の計測や、経験者らが「におい」で発酵の進行具合を確認するなど、日々の発酵状態を細かく把握・分析しているが、それらの工程を、効率的かつ衛生的に行うための方法を模索していた。

 一方で、旭化成とNIMSは、「におい」をデータ化するMSS(膜型表面応力センサー)を用いた嗅覚IoTセンサーを開発し、社会実装に向けた多種多様な環境下での有効性の実証実験を推進。NTT東日本は、地域の様々な企業や団体に対して、ICTを活用した課題解決を行っている。

 こうした中、各社が連携を図り、「におい」データに含まれる様々な情報を分析し、「におい」データの意味や価値、今後活用できる業務などを共同で検証していく。データから清酒に含まれる特定物質の検出や、香味の高低や強弱の把握を行い、AIやIoTなどを活用して「におい」をよりきめ細やかに把握することで、味わい深く香味豊かな清酒の製造を目指していく。

三菱ケミカルなど LEDに関する特許が米国で成立

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2018年10月2日

 三菱ケミカル、物質・材料研究機構、日亜化学工業、シチズン電子はこのほど、4者が共有するLEDに関する特許が米国で成立したと発表した。

 この特許(米国特許第10072207号)は、赤色蛍光体として窒化物系赤色蛍光体を用いるもの。高い輝度と信頼性から、白色LED用として最も広く使われている赤色蛍光体で、一般に、CASNあるいはSCASN蛍光体、1113蛍光体と呼ばれている。

 4者はLED用として広く用いられるこの赤色蛍光体に関し、特許を相互に実施許諾することで2015年に合意している。実施許諾の対象となる特許のうち、この赤色蛍光体基本特許は すでに米国で成立して、4者で共有しているが、今回さらに、赤色蛍光体を用いたLEDに関する基本特許も米国で成立した。

 4者は赤色蛍光体と、これを用いたLEDに関する特許群について、他社がこれらの特許群を侵害する場合、適正な対応を取る考えだ。