三洋化成ら ナノ粒子利用の農薬送達システム研究が採択

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2020年12月10日

 三洋化成工業と岡山県農林水産総合センター、名古屋大学はこのほど、共同で進める研究課題「ナノ粒子を用いた農薬送達システムによる革新的植物免疫プライミング技術の開発」が生物系特定産業技術研究支援センターのイノベーション創出強化研究推進事業(基礎研究ステージ)に採択されたと発表した。

 病害虫抵抗性誘導剤は植物の免疫力を高めて耐病性を向上させる農薬で、生態系への影響や環境負荷が少なく病害虫が耐性をもつこともない。効果の持続性が高く省力的で利便性が高いが、処理濃度や方法、植物の種類により生育不良などの薬害があり、実用は一部の作物に限られる。適切な用量で植物細胞に作用させた場合、病害虫の攻撃時のみ反応する潜在的な免疫機能を付与するプライミング効果が期待できる。今回、病害虫抵抗性誘導剤を生分解性ナノ粒子に内包し、植物細胞内で適切な用量を徐放する農薬送達システムの基礎研究を進める。

 三洋化成が開発した生分解性材料と界面活性剤からなる葉面散布向けナノ粒子は、農薬を内包し、生分解性材料の分解とともに農薬を放出。界面活性剤の組成設計で放出挙動が制御できる。岡山県農林水産総合センター生物科学研究所による予備検討で、病害虫抵抗誘導剤の徐放が確認できた。今後、代表研究機関である名古屋大学は、世界初の植物の病害防除応答を可視化する免疫シグナルバイオセンサー技術を使い、植物免疫シグナルの評価とナノ粒子による植物免疫プライミング効果の特性解析と研究総括を行う。

 生物科学研究所は、植物の抵抗性誘導の知見やマイクロアレイ解析で集積した遺伝子発現プロファイルのビッグデータを使って、植物免疫プライミングの活性評価や植物免疫プライミング技術を構築する。また三洋化成は、界面制御技術や高分子設計・合成技術により、病害虫抵抗性誘導剤内包の生分解性ナノ粒子の最適な構造設計・合成とその薬剤送達システム特性の解析などを行う。同研究を通して効果的な植物免疫プライミング技術を確立し、農業現場や環境への負荷を軽減した安定な作物生産に貢献していく考えだ。