東大と産総研 電子励起状態のAI予測で解析時間を短縮

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2020年6月26日

 東京大学生産技術研究所と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、励起状態にある電子構造を人工知能(AI)で高速かつ高精度に予測する新手法を開発した。この手法を電子励起分光スペクトルに適用することで、物質の構造解析や環境物質調査、医療診断に要する時間の大幅短縮が可能となる。

 半導体設計、電池開発、触媒解析の現場で、物質構造を調べる方法の1つに電子励起分光スペクトル測定がある。X線・電子線を照射して物質中の電子を励起し、その励起状態に応じて得られるスペクトルを解析することで物質の原子配列と電子構造を調べる方法だ。それにはコンピュータで電子の励起状態を再現し、スペクトルを理論計算する必要があり、膨大な時間を要する。また励起状態は複雑なため、物質間の励起状態の違いなど、基礎的な知見がなかった。

 研究グループは、酸化シリコン(SiO2)の「結晶」と「アモルファス(非晶質)」の励起状態と基底状態について、1200個近いスペクトルをデータ化。それを使って基底状態と励起状態の関係性をニューラルネットワークに学習させ、基底状態の情報をもとに励起状態の電子構造を高速・高精度に予測できるAIを構築した。

 その結果、スペクトルの理論計算を数百倍に高速化できた。さらに、SiO2で作成した予測モデルを酸化マグネシウムや酸化アルミニウム、酸化リチウムなどに適用した結果、結晶構造や構成元素が異なるにもかかわらず、それらのスペクトルを高精度に予測できた。このことは、SiO2とこれら酸化物の励起状態が類似していることを示唆している。

 一方、結晶SiO2で作成した予測モデルをアモルファスSiO2に適用すると予測精度が著しく低く、同じ組成物であっても原子配列によって励起状態が異なることが明らかになった。

 今回は内殻電子励起スペクトルに適用したが、赤外分光やラマン分光などの励起状態が関わるスペクトルにも展開することで、物質の構造解析や環境物質調査の時間を大幅に短縮でき、物質科学や環境問題の解決、医療技術の発展などへの貢献が期待される。