東京大学など 「めっき」で高性能有機トランジスタを製造

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2020年9月4日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループはこのほど、「無電解めっき」による高精細パターニング金電極を有機半導体に貼り付けた高性能有機トランジスタの製造に成功した。

 有機半導体は印刷で作れるため、RFID(近接無線通信)タグや種々のセンサーなど膨大な数のデバイスを使うIoT時代に有望な基盤材料。移動度(動作速度)も実用レベルに達している。

 有機半導体の電極には、キャリア効率が高く酸化されにくい金や銀の貴金属薄膜が使われる。製造には高真空・高温/プラズマプロセスを要し、高真空チャンバーとポンプ、電極の微細パターニング用のリソグラフィーなどが必要で、高額設備投資、コスト、環境負荷が量産化の課題だった。

 今回、材質表面を金属被覆できる「めっき」のうち、薬品を用いる「無電解めっき」により真空プロセスなしで金電極を作製した。まずフッ素系高分子薄膜に真空紫外光LEDを照射し、銀微粒子インクが濡れる領域をパターニング(親液・撥液パターニング)。そこに銀微粒子インクを塗布して銀微粒子層のパターンを形成する。それを金めっき液に浸すと、銀の触媒作用で銀微粒子層表面に金の薄膜が被膜される。これでリソグラフィープロセスなしで10㎛程度の高精細パターニングが可能となった。

 この金電極を、同グループが開発した電極転写法により有機半導体上に取り付けて有機トランジスタを試作。ゲート電圧・ドレイン電流から求めた移動度は10㎠/Vs程度と実用レベルで、金属-有機半導体界面の接触抵抗も120Ωcm程度と十分に小さく、単分子層有機半導体(厚さ4㎚)の本来の性能を引き出せることを実証した。

 「無電解めっき」で、積層デバイスの大面積化が可能となり、半導体側の制約も減る。また、めっき液は基本的に有機溶媒を含まない水溶液で再利用が可能なため、環境負荷も小さい。低コスト・低環境負荷、フレキシブルエレクトロニクス用のプロセスとしての利用が見込まれる。

 今後、有機半導体を用いたソフトエレクトロニクスの社会実装やバイオエレクトロニクス分野への貢献が期待される。