東大 蓄熱セラミックスを開発、弱い圧力で瞬時に熱を放出

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2019年10月3日

 東京大学大学院理学系研究科化学専攻の大越慎一教授らの共同研究グループはこのほど、長期間熱エネルギーを蓄えることができ、弱い圧力を加えることにより蓄熱エネルギーを取り出すことのできる高性能な蓄熱セラミックスを開発した。

 開発品は、ラムダ型五酸化三チタンと呼ばれる結晶構造で、粒子がブロック型形状を取ることから、ブロック型ラムダ五酸化三チタン(Block‐type Λ‐Ti3O5)と名付けられた。

 このブロック型ラムダ五酸化三チタンの蓄熱量は、固体‐液体相転移物質に匹敵する237kJ/Lという大きな値(水の融解熱の約70%、エチレングリコールの融解熱の約140%)。

 開発品の最大の特徴は、弱い圧力を加えることでベータ五酸化三チタンへの相転移を誘起することにより、蓄えた熱エネルギーを放出することができること。圧力誘起相転移は数メガパスカル(MPa)からはじまり、7MPa(70気圧)でラムダ構造の割合が半分まで減る。

 70気圧という圧力は、市販の7㎥圧力ボンベの圧力の半分程度であり、固体における圧力誘起相転移では最も弱い圧力。このような長期エネルギー保存と、低圧力印加による熱放出が1つの材料で実現できた理由は、2つの安定相(ラムダ型構造とベータ型構造)をもつことと、その2つの相の間に適切な低いエネルギー障壁が存在することに由来している。

 長期的なエネルギー保存が可能な蓄熱材料は、不要な排熱を吸収して熱エネルギーとして再利用する部材としての活用が期待されている。特に自動車では、運転中に放出されてしまう熱エネルギーを有効に生かして燃費を上げるため、エンジンやマフラーなどの部品周りへ装着が期待されているが、実装可能な圧力機構という観点から、10MPa以下の圧力で放熱できることが望ましいとされる。

 今回開発した蓄熱セラミックスは、自動車の熱エネルギーを有効利用して初動時などの燃費向上につながる蓄熱材料や、太陽熱発電所の蓄熱システムとしての応用が期待される。