住友化学と東北大学 アルミ負極の劣化回避、新しい機構を解明

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2020年5月7日

 住友化学はこのほど、東北大学金属材料研究所の李弘毅特任助教、市坪哲教授をはじめとする研究グループと共同で、リチウムイオン二次電池(LIB)の負極の材料を高純度アルミニウム箔のみで、充放電時に起こる巨大体積ひずみを回避するという新しい機構を解明したと発表した。両者は2019年4月より連携して、LIB高容量化のための新しい負極の研究開発を行っている。

 LIBは、リチウムイオンが正極と負極間を移動することで充放電が行われ、負極は、充電時に正極から移動してきたリチウムイオンを取り込む役割を果たしている。現在の負極は炭素系材料が主流だが、電池のさらなる高容量化のために、炭素系材料に比べて3~10倍のエネルギーを蓄えられるシリコンのほか、スズやアルミニウムなどの金属系材料の使用が期待されている。しかし、それらの材料は、大きなエネルギーを蓄えられる反面、充放電時に2~4倍も膨縮するため内部の電極構造が崩れやすい点が、実用化の課題となっていた。

 今回、両者の研究グループは、高純度アルミニウム箔の硬さを最適化することにより、課題であった充放電時の体積膨縮の制御が可能なことを見出だした。今回の解明は、東北大学金属材料研究所の物質・材料に関する科学の力と、住友化学が長年にわたり高純度アルミニウム事業で培ってきた技術の融合による成果と言える。一体型アルミニウム負極の実現により、従来のLIBに比べて、電池製造のプロセスを大幅に簡素化できることから、製造工程の環境負荷低減とともに、高容量化や軽量化、低価格化なども期待できる。また、次世代電池として注目される全固体電池にも、研究成果を適用できる可能性がある。

 両者は引き続き、一体型アルミニウム負極の実現に向けて研究開発に励み、持続可能な社会の構築に取り組んでいく考えだ。

住友化学と東北大学アルミ負荷の劣化回避

慶大・東大 実験とMI融合で効率化、LIB負極材を開発

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2019年9月13日

 慶應義塾大学と東京大学の研究グループはこのほど、実験主導型のマテリアルズ・インフォマティクス(MI)により、リチウムイオン二次電池(LIB)の負極となる世界最高水準の性能をもつ有機材料の開発に成功した。

 同研究では有機材料の新たな設計指針を確立するとともに、極めて少ない実験数で高容量・高耐久性の材料が得られる手法を示した。同開発は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「さきがけ」によるもの。

 電池の省資源化に向けて、LIBの負極として金属を使わない有機材料が求められるが、従来は研究者の試行錯誤や経験と勘で探索されており、設計指針は明らかでなかった。

 一方、MIは研究者の経験と勘の関与を減らすための手段だが、一般的に、大規模なデータ(ビッグデータ)に対して機械学習を行うため、実験科学者の小規模な自前データや経験知をどう活用するかに課題があった

 。そこで、慶大理工学部の緒明佑哉准教授らの研究グループは、東大大学院新領域創成科学研究科の五十嵐康彦助教らと共同で、小規模でも比較的正確な実験データと実験科学者の経験と勘を融合した「実験主導型MI」の手法を探索した。

 具体的には、まず16個の有機化合物について負極としての容量を実測し、容量を決定づけている少数の要因をスパースモデリングで抽出した。スパースモデリングとは、現象を説明する要因は少数(スパース)であるという仮定に基づき、適切な規範に従ってデータに含まれる主要因を抽出するデータ科学的手法の一つ。

 この学習結果をもとに、抽出した因子を変数とした容量予測式(予測モデル)を構築。次に、市販の化合物の中から、研究者の経験と勘も交えながら、負極としてある程度の容量が見込まれる11個の化合物を選び、実験をする前に容量の予測値を算出した。

 予測値の高かった3個の化合物について容量を実測すると、2個の化合物で高容量を示した。さらに、そのうちの1つであるチオフェン化合物を重合すると、容量・耐久性・高速充放電特性が向上した高分子の負極材料が得られた。

 同研究では、少ない実験データ、研究者の経験と勘、機械学習を融合し、高性能な材料の探索に成功したことから、材料探索を効率化する上で、実験科学とMIの融合の有効性を明らかにした。また、今回確立した有機負極材料の設計指針により、さらなる性能向上や新物質の発見が期待されている。