理化学研究所(理研)はこのほど、環境資源科学研究センター触媒・融合研究グループの山口滋基礎科学特別研究員と袖岡幹子グループディレクター(開拓研究本部袖岡有機合成化学研究室主任研究員)の研究チームが、有機合成の「不斉触媒反応」について、不斉収率決定段階の反応中間体の構造を用いたデータ解析を行い、不斉収率が向上する分子設計に成功したと発表した。
医薬品などファインケミカルの合成に不可欠な不斉触媒反応の開発では、不斉収率が向上する基質分子や触媒分子の設計を行うことが重要。同研究成果により、触媒反応開発の効率化に向けたデータ駆動科学に関する研究が加速すると期待できる。
人工知能・データ科学は現在、研究者の試行錯誤により行われている触媒反応開発を自動化・高速化すると見込まれている。しかし、データ科学的手法を用いた場合、精度の高い予測ができるのは、解析に用いたデータの範囲内に限られるため、手持ちのデータを超える機能を示す分子のデータ駆動による予測・設計は簡単ではない。
今回、研究チームは、不斉収率が決まる段階の反応中間体の構造を用いてデータ解析を行うと、不斉収率が向上する分子設計を可能にする構造情報を抽出・可視化できることを発見。そして可視化した構造情報をもとに基質と触媒分子の設計を行い、基質に関して不斉収率が向上することを実験的に確認した。
なお、同研究は、日本化学会の科学雑誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」のオンライン版(9月11日)に掲載された。