東洋紡は17日、中空糸型の正浸透膜(FO膜)が、デンマークの浸透圧発電パイロットプラントに採用されたと発表した。今年9月から実証実験を開始しており、早期の実用化を目指している。
この事業は同社がデンマークにある浸透圧発電のベンチャー企業ソルトパワー社、産業機械メーカーのダンフォス社、エンジニアリング会社セムコ・マーチン社と4社共同で運営するもの。
今回採用されたのは、中空糸を円筒形の圧力容器に高密度に充填したFO膜で、水分子を通し一定の大きさ以上の分子やイオンを通さない半透膜の一種である。
東洋紡は1970年代に、繊維事業で培った紡糸技術を応用し、中空糸型半透膜を開発した。海水を淡水に変える逆浸透膜(RO膜)として、性能や耐久性などが高く評価され、1980年代初めから主に中東湾岸地域の海水淡水化施設で採用実績を重ねてきた。
デンマークで運転を開始した浸透圧発電プラントは、地下から汲み上げた地熱水と呼ばれる塩水と、淡水の塩分濃度の差を利用して発電するシステム。塩分を通さずに水を通す性質をもつFO膜を隔てて塩水と淡水を接触させると、浸透圧差により塩水側に水流が発生。この水流を利用してタービンを回すことで発電する。
地熱水を活用した浸透圧発電は、太陽光や風力に比べ、天候や昼夜に左右されない新しい再生可能エネルギーとして注目を集めている。
同社のFO膜は、高密度に充填された中空糸によって水が効率的に流れる内部構造を持ち、発電用タービンを回すための水流を安定かつ低ロスで発生させる。また、効率的な浸透圧発電に必要な高い水圧に対して、RO膜用途で実証してきた優れた耐圧性能を備えていることなどが高く評価され、今回の採用となった。
同プラントは、同型の浸透圧発電方式としては業界最大で、一般的な家庭約50世帯分の電力に相当する20kWを発電。これまで実験的な浸透圧発電設備はあったが、実用規模の浸透圧発電プラントが運転を開始するのは世界で初めて。
来年9月ごろまで実証実験を行い、2021年までに東洋紡製の浸透膜を採用した、1㎿規模の浸透圧発電プラントをデンマーク国内で建設するとともに、他の欧州地域にも同規模のプラントを導入していく予定だ。