産業技術総合研究所(産総研)のゼロエミッション国際共同研究センターはこのほど、ナノ構造制御した高性能空気極を開発し、固体酸化物形燃料電池(SOFC)単セルで世界最高レベルの出力密度を達成した。「固体酸化物エネルギー変換先端技術コンソーシアム(ASEC)」でプライマリ会員の大阪ガス、京セラ、デンソー、森村SOFCテクノロジー、三浦工業と産総研による「革新セルスタックプロジェクト」の取り組み。
SOFCは他の燃料電池より発電効率が高くすでに市販化されているが、システムの大きさや製造コストが普及への課題だ。セルの出力密度向上を目的に、電極反応抵抗の小さな空気極の開発に取り組み、今回パルスレーザー堆積(PLD)法で自己組織化ナノ複合空気極と、その性能を十分に発揮するためのナノ柱状多孔質集電層、ナノ複合化燃料極機能層を開発・搭載した。
従来の空気極材料には単一または複数の金属酸化物との混合物である多孔質焼成体が使われ、その粒子径は数百㎚から1㎛程度である。今回PLD法により、二種類の材料が太さ数10㎚程度の柱状構造の中に各々幅数㎚の縞状で存在する交互配置構造の作製に成功した。燃料極機能層は、水素の酸化反応を促進するために燃料極支持体と電解質の間にあり、サブミクロン程度のセラミック混合物が使われる。
今回、噴霧熱分解法により、10㎚程度の一次粒子を凝集、二次粒子化した粉末を作製。セル全体の抵抗低減と緻密な薄膜電解質の形成を向上させる。空気極集電層は電極反応のための電子を供給する層で、通常1㎛程度の粒子からなる。今回PLD法で作ったナノ柱状多孔質集電層は、数十㎚程度の領域ごとに電気的接続をし、電極全体の効率を上げた。これらの新規材料を搭載した単セルは、電極反応抵抗率0.01Ω/㎠、700℃での出力密度4.5W/?以上、SOFCセルの一般的な作動電圧0・8Ⅴでの電流密度三A/㎠で、従来の一般的なセルの6~10倍の電流値を実現。これによりセル枚数は10分の1程度にでき、コストの大幅削減とシステムの小型化が見込まれる。
6月から開始したASEC第2期では、構造安定化による電極の長寿命・高信頼性化や、量産化への適応性検討などを進めるとともに、これら部材を搭載する技術の早期実用化を図る。