産業技術総合研究所(産総研)は、東京大学、筑波大学、北里大学と産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリが、高信頼性かつ高電荷移動度、大気、熱、バイアス(動作電圧)ストレス耐性を併せ持ち実用に耐えうる塗布型n型半導体材料の開発に世界で初めて成功した。
この材料は、新しい分子設計指針に基づく電子輸送性BQQDI(ベンゾイソキノリノキノリンジイミド)骨格を持つ塗布型n型有機半導体材料で、IoT社会のキーデバイスである電子タグやマルチセンサーの実用化を加速させることが期待される。
現在汎用される主としてシリコン系の無機半導体は、電荷移動速度は高いが、重く、硬く、製造にも300~1000℃の高温が必要となる。一方、軽量かつ柔軟で、印刷による低温作製によりコストと環境負荷を大幅に軽減した有機系半導体が注目され、すでに無機半導体のアモルファスシリコンより1桁高い10㎠/V・s級の正孔移動度を持ち、実用に耐える環境ストレス耐性を示す印刷可能なp型半導体が報告されている。多種多様なハイエンドデバイス開発のためには、p型と同程度の安定性、プロセス性およびデバイス性能を併せ持つn型有機半導体が求められていた。
こうした中、今回、ペリレンジイミド骨格に窒素を導入したBQQDI骨格を持つ有機分子が、大気下で安定なn型有機半導体の母骨格となることを発見。特に、フェネチル基を導入したPhC2‐BQQDIの単結晶が三㎠/V・sの電子移動度および高い信頼性因子を示すことを見出だした。大気下で6カ月以上安定にデバイスを駆動することが明らかとなり、熱ストレスやバイアスストレスに対しても極めて高いデバイス安定性が実証された。
さらに、この優れた半導体特性が、無機半導体同様のバンド伝導機構に基づくことも実験的に証明された。分子力学計算と伝導計算からも、窒素を介した多点水素結合が分子間振動を抑制し電子移動度を向上させていることが明らかとなった。また、CMOS論理回路に応用することにも成功。
BQQDI骨格は性能・耐性ともに前例のないn型有機半導体で、次世代エレクトロニクスの研究と産業の戦略材料になるだけにとどまらず、曲がるディスプレー、電子タグ、マルチセンサー、熱電変換素子、薄膜太陽電池などの開発への貢献が期待できる。
なお、PhC2‐BQQDIは、来月上旬から富士フイルム和光純薬から試薬として販売される予定。