水深約3500m の海域にセメント硬化体と計測機器を設置
宇部興産、港湾空港技術研究所、海洋研究開発機構、東京工業大学および東京海洋大学の研究グループはこのほど、深海インフラ構築に向けたセメント硬化体の力学特性の評価手法を確立し、実海域でのデータ計測を世界で初めて開始したと発表した。
深海でセメント硬化体の内部に生じる圧力やひずみを実際の深海底で連続計測することで、将来的に深海で使用するインフラ材料の開発や構造物の設計手法の構築に役立つことが期待される。なお同研究は、科学雑誌「ジャーナル・オブ・アドバンスド・コンクリート・テクノロジー」に掲載された。
セメント硬化体の力学特性の評価手法
同研究は、短期間および長期間の高水圧によって、セメント硬化体がどう変形するかを明らかにすることが目的。従来は、深海から回収した後の硬化体の変化を測定していたが、回収時の圧力変化により硬化体に変化が生じる可能性もあり、深海で起こった現象を正確に把握できなかった。また、深海と同等の高水圧の水槽を利用した実験でも、実際の構造物のスケールで起こりうる現象や潮流・生物付着などの影響が再現できない。
こうした中、研究チームは硬化体内部に生じる圧力やひずみを深海底で連続計測する方法を確立。これにより、深海で起こっている現象だけを抽出してデータを分析、考察することが可能となった。研究グループは、昨年7月に駿河湾沖70Kmに位置する南海トラフ北縁部、水深約3500mの海域に硬化体と計測装置を設置。今年度中に回収し、計測結果を解析する予定だ。
海洋国家の日本にとって、積極的な海洋利用は重要な課題の1つ。深海での海洋インフラの建設には、設計の自由度や汎用性が高いセメントの利用が検討されている。またセメントは、日本でほぼ100%自給できる石灰岩から製造され、安定的に供給できるというメリットもある。
これまで、深海の極限環境がセメント構造物にどのような影響を及ぼすか評価されていないが、最新の研究では、深海で著しく劣化したことが報告され、既存の知見や設計手法だけでは深海インフラを構築できないことが明らかになってきた。深海インフラの構築に向けて、まずは基礎データの収集が重要となっている。