高流動・高導電性を両立、LIB長寿命化に貢献
東レは、高濃度でありながら流動性に優れた極薄グラフェン分散液を創出した。開発品は、グラフェンがもつ高い導電性などの優れた特長を発揮しやすいことから、電池材料や配線材料、塗料など各種用途への展開が期待できる。同社は早期の実用化を目指し、研究・技術開発を推進していく考えだ。
グラフェンは、炭素からなるナノサイズの極薄シート状の二次元材料。均一に配列しやすい性質があり、優れた導電性・熱伝導性・バリア性を備える次世代機能性材料。グラフェンを塗布したり、他材料と混合したりすることで新たな機能を付与することができる。
東レは、安価な黒鉛原料から化学剝離法による3㎚以下の極薄グラフェン製造技術を開発。物理剝離法(20~50㎚)や、他社の化学剝離法(10~20㎚)と比べ極薄であることから、塗布した時の被覆性や他材料との混合性にも優れる。しかし、薄いほど凝集しやすく、高濃度にすると粘土状となり流動性が悪化してしまう。そのため、塗布や混合には希釈して低濃度溶液で使用する必要があり、グラフェン本来の特長を発揮しにくいといった課題があった。
こうした中、東レは、グラフェン同士の相互作用による凝集を抑えるため、独自の高分子材料を添加してグラフェンの粘度を自在に制御する分散技術を開発し、高濃度の極薄グラフェン分散液の流動性を高めることに成功。開発品は高濃度でも流動性が良好であることから取り扱い性に優れ、希釈することなく塗布できるので高い導電性といった特長を発揮しやすい。また、分散性が高く攪拌しやすいことから他材料と混合も容易だ。
例えば開発品をLIB用導電材料に使うと、正極材料と混合しやすく、正極の間にグラフェンが入り込み、導電性が向上する。これにより電池を繰り返し充放電する際に、導電経路の劣化による電池容量低下が抑制され、電池の寿命が長くなる。従来、EV向け高性能電池の導電助剤にはカーボンナノチューブ(CNT)が使用されているが、開発品に置き換えることで、CNTより電池寿命が1.5倍向上することを同社の電池評価で確認。コストについても、量産化によりCNTと競合できるレベルになると見られる。
さらに、開発品は塗布し乾燥する際、グラフェンが積層することで緻密膜を形成。この緻密膜は金属のように錆びないことから、耐久性に優れた導電配線材料として、プリンタブルエレクトロニクス用配線への応用が期待できる。また、防錆塗料に混合すれば水や酸素の透過を遮断し耐久性を向上できるなど、幅広い用途への展開が可能だ。
同社はすでに極薄グラフェンと分散液のサンプル提供を開始しており、顧客から高い評価を得ている。今後は製品のブラッシュアップとともに量産化体制を早期に整え、2030年度には売上高で100億円超を目指していく方針だ。