NEDOはこのほど、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する熱電材料を、汎用元素だけを用いて開発し、モジュール化にも成功した。実証試験では、5℃の温度差で発電するモジュールを用い、IoT機器の自立電源としての有用性を示した。
同事業で材料開発や材料合成、性能評価を行った、物質・材料研究機構(NIMS)の高際良樹主任研究員は、今後想定される研究課題として、人体に装着するセンサーの自立電源への応用などを挙げた。
体温と外気の温度差はせいぜい1℃。この温度差で装置を動かすには、熱電材料の高性能化もさることながら、熱をどう効率的に吸収するか、どう逃がすかが問題になってくるという。
熱電素子の両面の温度差で発電する熱電発電モジュール。たとえば、熱を受ける上部には熱伝導率の高い受熱シートが必要になってくるし、下部には放熱に有効なシートが求められる。高際主任研究員は、素材の提供・開発といった側面から、化学メーカーの参加を呼び掛けていた。
NEODは省エネルギーの観点から、未利用熱の革新的な活用技術研究開発を推進している。未利用熱とは、製造プロセスの中で利用されずに排出される工場の排熱や、自動車のエンジン回りから出る熱をはじめ、エアコンの排熱、住宅の窓や壁から放熱とさまざまなものがある。
石油や天然ガスといった1次エネルギーをベースにすると、その60%は未利用熱として排出されているという。この未利用熱の活用法の1つとして、熱を電気に変換する熱電材料の開発が進められている。いわば熱のリサイクルだ。
今回の開発が画期的なのは、汎用元素の鉄、アルミニウム、ケイ素のみからなる熱電材料を開発したことだ。200℃以下の低温熱源を利用する熱電材料の場合、ビスマス‐テルル系の化合物が知られているが、どちらも希少元素(レアメタル)である上に、テルルは毒性が非常に強いことなどの課題があった。
高際主任研究員は、開発した革新的な鉄(Fe)‐アルミニウム(Al)‐ケイ素(Si)系の熱電材料(Thermoelectric Material)を、その頭文字から「FAST(ファスト)材料」と命名した。
FAST材料のさらなる高性能・高機能化には、化学メーカーが提供する素材がカギとなりそうだ。