ベンゼン市況が調整局面、誘導品需要も弱含みに
宇部興産は、ナイロン原料であるカプロラクタム(CPL)について、8月(上旬決め)の韓国・台湾大手向け契約価格を前月と同額の2070ドルで決着した。これで5月から4カ月連続でステイとなっている。
同社は、8月のベンゼンACPが一段高で決着したため、値上げを前提に交渉を進めていた。しかし8月に入ってからベンゼン市況が大幅に下落し、CPLのスポット市況にも先安観が出始めた。値下げ要求が強まったものの、粘り強く交渉した結果、前月の価格水準を維持したようだ。
スプレッドについては、ベンゼン市況が上昇したため1005ドルに悪化。3月以降は1000ドル以上を確保できており、輸出環境は良好と言えるものの、9月以降もこのレベルを維持できるかが注目される。
CPLのアジア市場は、繊維用途は夏場が衣料向けの不需要期に当たることに加え、エンプラ用途でも中国で自動車生産が落ち込むなど需要に力強さが見られていない。こうした中、中国メーカーは余剰となったナイロンチップを安値で輸出する動きを強めており、需給にタイト感がなくなりつつある。台湾大手メーカーは一部グレードで減産しているようだが、足元のスポット価格は2000ドルを割り込むケースも出てきているようだ。
一方、中国・SINOPECは、7月(下旬決め)の契約価格について、前月比130ドル高(1000人民元高)の1871ドル(1万4900人民元)で決着した。需給の悪化から価格が落ち込んだ6月の1741ドル(1万3900人民元)に比べ大幅な値上げとなったが、これまでのベンゼン価格の上昇分を転嫁したと見られる。ただ、中国内でもベンゼン価格が弱含んできたため、8月の仮価格は、25ドル安(200人民元安)の1846ドル(1万4700人民元)で打ち出した。
需給バランスが悪化している中国では、減産で価格の下落幅を抑えている。8月初旬の稼働率を見ると、CPLは75~76%となった。減産を強化した7月初旬(63%)からは上昇したが、7月の平均値(78%)からは弱含んでいる。ナイロンチップも65%(7月初旬66%)に下げており、特に汎用品は58%と低稼働が継続している。ヤーン(紡糸)は85%(同87%)と比較的高稼働だが、不需要期ということもあり低下傾向にある状況だ。
9月のCPL価格については、調整局面になるとの見方が強い。ベンゼン価格が弱含んでいることに加え、需要面では懸念材料が出てきている。衣料向けでは、コロナ変異株の感染拡大によりナイロンチェーンの混乱が想定され、季節性がなくなる可能性もある。またエンプラ向けでは、先日、トヨタ自動車が減産を発表。生産計画は据え置くとしたが、自動車部品などに影響が拡大するとの指摘もある。いずれにせよ、今後の市場動向を注視していく必要がある。
なお、宇部興産の各工場については、宇部工場のトラブルはすでに解消。タイとスペインを合わせ3工場はすべてフル稼働を継続している。