産業用ソフトウェアの世界的なリーダーとしてDXおよび持続可能性を推進する英AVEVAの日本法人であるAVEVAは4日、三菱ケミカルグループ(三菱ケミカル)が、AVEVA Asset Information Management (AIM)を茨城事業所に導入し、化学プラントのデジタルトランスフォーメーション(DX)を強化していることを発表した。同ソリューションは、散在する多様な情報を一元化し、アクセスを提供することで、ユーザーによるデータに基づく効率化と迅速な意思決定を支援し、同社の持続的な成長を支える。
近年、国内製造業では、熟練技術者の高齢化と労働人口減少に伴い、ノウハウの継承や属人性排除が喫緊の課題となっている。同社では10年以上にわたり、運転、設備、生産管理に関するデータが複数のシステムに点在し、情報検索に膨大な時間を費やしていたため、これらのデータを連携し、活用する方法を模索していた。また、同社は、2022年に策定したDXビジョン「安定運転(絶対止まらない)」「コストMIN(国内競争力No1)」「作業負荷MIN化(真のKAITEKI職場)」の実現には、これらの情報を横断的に活用できるデータ連携基盤の構築が不可欠であると判断した。
その実現に向けて、三菱ケミカルは、国内外で豊富な実績と知見を持ち、同社の目指すデータ連携を確実に実現できる、信頼できるパートナーとしてAVEVAを選定。運転部門および設備技術部門とのチームを編成した。そして、2023年12月から約一年をかけて環境構築を進め、現在は茨城事業所において、データ連携によるさらなる効率化に取り組んでいる。
AIMは、工場内に散在する図面、文書、運転データ等の多様な情報を1つの入り口に集約するデータ連携基盤。導入にあたっては、単にパッケージ商品を導入するのではなく、まず業務のあるべき姿を定義し、その実現のためにAIMに求められる機能やドキュメントを明確化するという手法を取った。 価値に直結する情報の特定や、関係者間での活用イメージの共有といった課題に対し 、両社は集中的に協議を重ね、予期せぬポリシー上の制約も乗り越えながら、理想のデータ連携システムを構築した。
導入による主な効果として、
作業効率の向上:プラント設備の運転・設備管理情報を検索する時間が大幅に短縮された。 従来、異なるシステムから収集していた図面や過去履歴などの関連情報がAIM上から一括で入手可能となり、設備管理計画の立案が効率化され、計画の精度も向上した。 また、トラブル発生時には関連情報へ迅速にアクセスできるため、不具合への初動が早くなっている。
属人性の排除:経験の浅い若手社員でも、ベテランと同様に必要な情報へ容易にアクセスできるようになった。 例えば、広大な工場内でも機器のタグ番号から配置図連携ですぐに場所を特定したり 、製造部門から設備管理部門への補修依頼時に、場所のアイソメ図と必要な情報を正確に共有したりすることが可能となり、部門間の情報共有が向上している。
論理的思考力の深化・展開:必要な情報が網羅的に確認できるようになったことで、抜け漏れの少ない検討が可能になった。 設備の状態をリアルタイムで監視し、異常があれば即座にAIMから関連情報を収集して検討に入れるようになったことで、より論理的な思考が促進され、判断の質が向上している、が挙げられる。
三菱ケミカルグループ企画管理部DX推進グループ黒澤知広氏は、次のように述べている。「主な成果は3点ある。まず、情報の連携により必要な情報へ迅速にアクセスでき、作業効率が向上した。次に、属人性が排除され、これまで限られた人しか扱えなかった情報が誰でも利用可能になった。最後に、意思決定に必要な情報が網羅的に揃うことで、論理的思考が促進され、判断の質が向上した。これらの成果により、業務の効率化だけでなく、安定した意思決定を支える環境が整いつつある」。
AVEVA VP、日本統括の佐々木正治氏は「三菱ケミカルのDX推進を支援できることを大変光栄に思う。当社のAIMはお客様の持つ膨大なデータを価値ある情報へと変換し、新たな競争力を生み出す原動力となる。今後も三菱ケミカルのパートナーとして、企業内で様々なユーザーのパフォーマンスを高めるデータ連携と利活用がもたらす継続的な成長を支援していく」とコメントしている。
今後、労働人口の減少や転職などで人の流動性がさらに高まることが予測されることを受け、三菱ケミカルは今後、社内の暗黙知の情報やドキュメントを誰でもすぐに扱えることができ、従業員が高いパフォーマンスを発揮できるような環境づくりを目指す。また、今回構築したデジタルプラットフォームを基盤に、生成AIを活用したオペレーションガイドの構築などを検討している。そして、意思決定のためのさらなる論理的思考や、すでに導入の AVEVA PI SystemのPI Event FrameworkやPI Asset Frameworkとの情報連携によるさらなる情報活用をAVEVAと進めていく。