NEDO 福島・愛知の「ロボットサミット」開催を延期

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2020年4月27日

 NEDOは、今年開催を予定していた「World Robot Summit(WRS)2020」の開催を延期する。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、海外からの参加チームを中心に、出場に向けた準備遅延の報告や、延期要望・辞退相談などが複数寄せられたことから、今年の開催は困難であると判断した。

 8月には福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市・浪江町)、10月には愛知県国際展示場(愛知県常滑市)での開催を予定していた。WRSは経産省とNEDOが主催する、競技会と展示会からなるロボットの国際大会。一昨年の10月に開催したプレ大会となる「WRS 2018」では、競技会に23の国・地域から126のチームが参加、展示会には国内外から90社・機関が出展し、盛況を博した。

 今回の「WRS 2020」は本大会に位置づけられる。競技会は4つのカテゴリー(ものづくり、サービス、インフラ・災害対応、ジュニア)で実施され、参加者の技術を駆使したロボットが一堂に会し、課題作業の正確性やスピードが競われる。

 両者は同ロボットサミットを通じ、人間とロボットが共生し協働する世界の実現を目指している。その実現に向けて、①世界の高度なロボット技術を集結させ、競争を通じて技術開発を加速すると同時に、②ロボットが実際の課題を解決する姿を示すことで人々のロボットへの理解を深め、ロボットの社会実装の促進を目的にしている。

 なお、延期後も、「World Robot Summit 2020」の名称は使用される。すでに競技会に応募したチームの審査については、引き続き実施していく方針とのこと。延期後の日程など詳細は、今後決まり次第発表される。

日化協 LRI第8期の新規委託研究課題に6件を決定

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2020年4月24日

 日本化学工業協会はこのほど、LRI(ロングレンジ・リサーチ・イニシアティブ:化学物質が人の健康や環境に及ぼす影響に関する研究の長期的支援活動)の第8期(2020年度)研究課題として新たに6件を決定した。

 今年度は、研究内容に世の中のニーズをより反映し、その成果を社会に還元できるように、LRIで取り組む5つの研究分野(①新規リスク評価手法の開発と評価②ナノマテリアルを含む、新規化学物質の安全性研究③小児、高齢者、遺伝子疾患などにおける化学物質の影響に関する研究④生態・環境への影響評価⑤その他、緊急対応が必要とされる課題)から、予め研究課題の範囲を明示した6つの研究テーマに対する募集を行い、35件の応募があった。

 採択された研究課題は、毒性発現メカニズムを考慮した毒性予測手法が1件、小児における化学物質の影響の評価が4件、マイクロプラスチックに関連した有害性、環境中運命、ばく露、およびリスクの評価手法の開発ならびに評価の実施が1件となっている。前年度から継続となる研究課題7件と合わせ、第8期のLRIの委託研究課題数は13件となる。

 なお、新規の研究課題については3月から委託研究を開始している。

東北大学 積層ナノ磁性体の磁気振動、AI技術に新視点

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2020年4月21日

 東北大学はこのほど、産総研と共同で「ブランコの数理(係数励振)」に基づく積層ナノ磁性体の磁気振動の増幅効果を、独自の光計測技術で発見したと発表した。今回の発見は、AIハードウエアの要素となる磁気素子の開発に、新しい視点を与える成果である。

 社会を取り巻く情報量は爆発的に増大しており、これを効率よく利用するための量子計算技術やAI技術などの研究が各国で進んでいる。その1つにナノスケール磁石の発する磁気の振動や波動を情報の担体とし、それらの重ね合わせを演算に用いる波動計算やリザーバー計算がある。これまで通電により動作するナノ磁気発振器や増幅器を用いる研究が進められてきたが、エネルギー効率が課題の1つであった。

 今回発見した積層ナノ磁性体は、新しい動作原理によるもので、通電不要の磁気振動や波動のナノ増幅器、あるいはナノ発振器の可能性を開くもの。同研究の積層ナノ磁性体は、厚み1㎚以下の非磁性金属(ルテニウム金属)を、厚み3㎚の磁性体(ホウ化コバルト鉄)で挟んだ。この2層の磁性体はバネのような力で結びついており、この力のため、2つの層の磁気が、同じあるいは逆のタイミングで振動することが分かっている。

 この2つの磁気の合成振動の運動を、独自のパルス光を用いて、数ピコ秒の時間分解能で観察。強い励起パルス光を照射すると2つの磁気振動が発生し、遅れて照射する弱いパルス光の反射の仕方から、磁気の振動を検出する。磁気の振動は摩擦力が働くため、時間とともに減衰するが、ある条件を満たした場合には、磁気の振動が時間とともに増幅することを発見した。

 2つの磁気の振動の仕方には、ブランコを漕ぐときのように最初は揺れが小さくても、次第に揺れが大きくなる(増幅する)、係数励振と呼ばれる数理が内在していることが分かった。2つの合成された磁気振動のうち、一方がもう一方を漕ぐことで、振動を増幅できるとしている。今回明らかとなった磁気振動の数理は、この積層ナノ磁性体が通電不要のナノ磁性素子となり得ることを示している。

 今後は、素子として用いる際の基本的な特性と材料、集積化した際の性質など、AIハードウエアへの応用を目指した研究を進める方針だ。

東京大学 世界で初めて窒素ドープ型ナノチューブを化学合成

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2020年4月20日

 東京大学は14日、同大学院理学系研究科の磯部寛之教授の研究グループが、窒素原子の量と位置を完全に制御した窒素ドープ型ナノチューブの化学合成に世界で初めて成功したと発表した。

 カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノカーボンは、その発見以来、新材料としての期待が高い。炭素以外の異種元素をドープ(埋め込み)すると、物性が大きく変えられる。なかでも、窒素ドープ型ナノカーボンは半導体利用などの応用研究において注目されており、年間200報に迫る論文が発表されている。しかしこれまで、物理的方法で製造されていることから構造中の窒素原子の位置や数を制御することが不可能であり、新材料開発を阻むボトルネックとなってきた。

 同グループは今回、窒素原子が周期的に埋め込まれた窒素ドープ型ナノチューブの化学合成に成功。昨年独自に開発したベンゼンのカップリング反応を活用したナノチューブ分子化学合成法に対し、新たにピリジン(アミンの一種)を用いることにより、窒素原子を組成・位置・構造などを完全に制御した上で埋め込むことが可能となった。

 ナノチューブ分子の304個の構成主原子のうち、8個を窒素原子とし、窒素原子の含有率を精確に2.6%とすることができた。これまで材料科学分野で検討されてきた窒素ドープ型ナノカーボンの窒素含有率は2~5%の幅であるが、今回の窒素含有率はその幅内に収まっていることから、これまで検討されてきた窒素ドープ型ナノカーボンの電子的性質・化学的性質を正確に探るために適した組成である。

 また最先端X線構造解析法により、窒素上の孤立電子対(ローン・ペア)の存在を明確にした。さらに理論計算の結果、窒素にはナノチューブに電子を注入させやすくする効果があることが分かった。

 窒素ドープ型ナノチューブはp型半導体にもn型半導体にもなることが報告されていたが、今回、窒素が電子を受け取り易くすることで、n型半導体になりやすくさせることが明らかとなった。これらの新知見は、今後、窒素ドープ型ナノカーボン材料の開発を加速させることが期待される。

東洋紡 60分以内で検出、新型コロナ検出キット発売

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2020年4月20日

 東洋紡はこのほど、最短60分以内で新型コロナウイルス(SARS‐CoV‐2)の抽出と検出・測定が可能な新型コロナウイルス検出キット「SARS‐CoV‐2 Detection Kit」を開発した。全国の研究機関や大学の研究室、製薬メーカーの研究部門向けに同日から販売を開始し、新型コロナウイルスの治療薬などの早期開発に貢献していく。

新型コロナウイルス検出キット「SARS-CoV-2 Detection Kit」
新型コロナウイルス検出キット「SARS-CoV-2 Detection Kit」

 同社が開発した検出キットは、遺伝子の抽出工程と増幅(PCR)・検出工程に掛かる手間・時間を大幅に短縮する。遺伝子の抽出工程では、サンプル中に夾雑物(きょうざつぶつ)が混じっていても反応が阻害されにくい、同社独自の遺伝子増幅酵素(特許出願中)を採用。夾雑物を取り除く必要がなくなり、煩雑な遺伝子の精製過程を省略できることから、検出キットに含まれる前処理液とサンプルを混合させるだけで遺伝子の抽出工程が最短2分で完了する。

 また、増幅・検出工程では、試薬の配合を調整して酵素の働きを最適化し、増幅に掛かる時間を従来の半分以下の最短56分に短縮。これにより、新型コロナウイルスの抽出から検出・測定まで最短60分以内で実現した。

 PCR法には、ウイルスから遺伝子を抽出する工程(約30分~2時間)と、遺伝子を増幅・検出する工程(約2時間)があり、これまで約2時間半以上掛かるのが一般的だった。このため、治療薬などの研究・開発で大量のサンプルを扱う場合に、多くの手間や時間を要する一因となっていた。なお、同検出キットの使用に際しては、汎用的な遺伝子増幅装置(リアルタイムPCR装置)だけで行え、抽出装置などを新たに準備する必要はない。

 今後は、同検出キットの開発で得られた知見や技術を応用し、全自動遺伝子解析装置「GENECUBE」用の診断薬の開発に取り組んでいく考えだ。

 今回の開発は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、北里大学・大村智記念研究所と国立感染症研究所・インフルエンザウイルス研究センター第2室との共同研究で実現した。

金型技術振興財団 研究開発・育成などで助成事業の公募受付を開始

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2020年4月16日

 金型技術振興財団はこのほど、令和2年度助成事業の公募を開始した。

 公募を行うのは金型技術などに関する①「研究開発助成」、②「技術者・技能者の育成に対する助成」、③「海外との技術交流および協力に対する助成」の3事業。

 同財団では、金型技術の向上を図り、日本の工業社会と産業経済の健全な発展に寄与することを目的に〝ものづくり〟の根幹技術である「金型技術」や、「金型を利用する成形技術」の研究開発活動などへの助成事業を行っている。

 「研究開発助成」では、金型関連技術やその基礎となる工学分野で独創的な優れた研究テーマを求めており、助成期間は2021年4月~2022年3月。助成金額は1件につき300万円以内とし、総額1500万円を予定する。応募期限は今年7月31日(必着)。

 同財団の選考委員会が研究の独自性や先見性、適時性、実現可能性、また、助成趣旨に対する適合性などを審査・選考の上、10月に開催を予定する理事会で決定される。

 なお、各助成事業の詳細や応募資格、助成期間・金額、応募方法などは同財団ウェヴサイト(http://www.katazaidan.or.jp/)まで。

昭和電工 AIでフレキシブル透明フィルムの開発を迅速化を実証

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2020年4月15日

 昭和電工はこのほど、産業技術総合研究所(産総研)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)と共同で、フレキシブル透明フィルムの開発に人工知能(AI)を活用することにより、要求特性を満たすフィルムの開発の実験回数を25分の1以下に低減できることを実証したと発表した。

フレキシブル透明フィルムの用途例
フレキシブル透明フィルムの用途例

 今回の開発は、NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」の委託事業として実施。超超PJでは、経験知による従来の材料開発からの脱却を目指し、AIやマルチスケールシミュレーションを積極的に活用することで、従来と比較して実験回数を削減し、開発期間を大幅短縮することを目指している。

 昭和電工など4者は、モバイル機器などの開発に欠かせないフレキシブル透明フィルムの設計にAIを活用し、要求特性を満たすポリマーの探索に取り組んでいる。

 はじめに熟練研究員が27種類のフィルムを作成し、その原料の分子構造、モル比などの化学的な情報をECFP(Extended Connectivity Circular Fingerprints)という手法を応用して説明変数に落とし込み、目的変数にはトレードオフの関係にあり並立の難しい物性である換算透過率、破断応力、伸びの3項目を選択し、作成したフィルムの実測データをAIに学習させた。

AI予測を行い作製したフレキシブル透明フィルム(引張試験中の写真)
AI予測を行い作製したフレキシブル透明フィルム(引張試験中の写真)

 その後、説明変数を網羅的に割り当てたデータを用意して、偏差値概念を導入したAIにこれら3項目が等しい割合で最大となる配合を予測させ、その予測の通りに3種類のフィルムを作成し、AI学習データを作製した熟練研究員が自己の知見に基づき作成した25種類のフィルムの物性値とを比較した。 

 この結果、AIが予測した配合で作成した3種類のフィルムの物性値は、いずれも比較実験として熟練研究員が作成した25種類のフィルムの物性値よりも優れていることが判明。研究員による開発に比べて25分の1以下の実験回数でより高い物性値のフィルムを得られたことから、大幅な開発期間の短縮が可能なことが実証できただけでなく、研究員の経験知をもとに作成した製品を超える製品が開発できる可能性があることも実証した。

 今後は同技術をさらに高度化させ、要求特性を満たしながらより良い物性値となる配合比をAIが提案できるように開発を進めていく。なお、同件の詳細は、超超PJ成果報告会のウェブサイトに発表された。

日化協 「第6回 日化協LRI賞」の研究受賞者を決定

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2020年4月10日

 日本化学工業協会はこのほど、日本毒性学会内に設立した日化協LRI(長期自主研究活動)賞の第6回目の受賞者として、徳島文理大学薬学部の角大悟(すみ・だいご)准教授(テーマ:「慢性ヒ素中毒の発症機構と生体応答に関する研究」)に決定した。

 受賞理由として、①ヒ素化合物の毒性発現を左右する因子として、ヒ素の輸送機構と解毒機構に着目し、抱合と排泄を促進する転写因子Nrf2がヒ素毒性の軽減因子として働くことを解明。

 また、慢性ヒ素ばく露による心毒性とNrf2活性化能の関連を示し、Nrf2がヒ素化合物の蓄積、毒性発現に中心的な役割を果たすことを示し、ヒ素化合物の毒性メカニズム解明に貢献

 ②ヒ素の解毒に関わるヒ素メチル基転移酵素の発現調節機構の研究から、mRNAの選択的スプライシングが解毒機能の低下を引き起こすことを示し、多くの化学物質の毒性発現機構における新しいターゲットとして、毒性発現機構解明への貢献が期待される、などの業績が評価された。

 なお、授賞式は第47回日本毒性学会学術年会(仙台国際センター:6月29日~7月1日)で行われる予定。

 日化協は研究者奨励(育成)の一環として、〝化学物質が人の健康や環境に与える影響〟について優れた業績を挙げた研究者を表彰している。

 LRIとは、化学物質の安全性を向上させ、不確実性を低減させることを目的に、化学物質の影響に関する研究を長期的に支援する自主活動であり、国際化学工業協会協議会(ICCA)に加盟している欧州化学工業連盟、米国化学工業協会、日化協の三団体によって1999年より運営されているグローバルプログラム。

 日化協では2000年よりLRIを通じて、年間1億円規模の研究支援をはじめ、2015年にはLRIの認知拡大と理解促進のほか、優れた若手の研究者および世界をリードするような新しい研究分野を発掘することを目指し、日本毒性学会内に「日化協LRI賞」を設立した。