8月20~21日にマレーシア・クアラルンプールで開催されたアジア石油化学工業会議(APIC)2018は、過去最高となる合計2011人が参加。「コラボレーションによる価値を創造」をテーマに、好調な事業環境の今後の見通しや、新たなイノベーション創出のための協調、さらには海洋ごみ問題など、化学産業が取り組むべき様々な課題について活発な議論が交わされた。
近年、アジアでは中間層の拡大により需要が増加しており、各国の石化業界は収益を確保している。ただ、米国と中国の貿易摩擦が深刻化することに対し、マーケットへの悪影響を懸念する声も多数あり、各国が注視している状況だ。そうした中、アジアの石油化学工業が発展するためには、個々が持つ情報や技術を共有し「協調」することで、新たな価値を生み出すことが重要であるとホスト国からの強い訴え掛けがあった。
一方、海洋ごみなどプラスチックの環境問題がクローズアップされ、化学企業への風当たりが強くなってきたことで、環境問題への意識も高まっている。各国協会のスピーチでも、持続的な社会への貢献のため、化学産業が環境問題に取り組んでいく必要性が示された。この問題には、日本は以前から取り組んでおり、プラスチックのリサイクルの知見や実績を保有していることから、今後、リーダーシップを発揮することが期待されている。
アジアを取り巻く環境が大きな変化に直面する中で、アジア各国の石化産業が置かれている現状をレポートした。
▽日本=需要堅調で設備高稼働、安全・環境といった課題に注力
日本の17年の実質GDP(国内総生産)成長率は、1.6%となった。海外経済が回復したことを背景に、一般機械や自動車を中心に輸出が伸長した。企業収益が改善したことで生産性向上のための設備投資が行われ、また、個人消費も緩やかな回復となった。
今年については、「2020年東京オリンピック・パラリンピック」に関連するインフラ需要の増加などポジティブな要因があり、景気は回復基調が見込まれている。
しかし、北朝鮮問題や中東リスクに加え、中国経済減速、米国や欧州の不安定な政策など世界経済を下押しする要因がある。また、労働人口減少により、いくつかの産業では経済成長が落ち込む可能性も出てきており、先行き不透明な状況だ。
17年のナフサクラッカーの平均稼働率は96.8%と前年比0.7ポイント上昇し、2年連続で95%を上回った。エチレン生産量は、653万tと前年から4%増加。また、内需(エチレン換算)も5%増の505万7000tと、3年ぶりに500万t台を回復している。その要因として、2016年までのエチレン生産能力の削減に対し、予想以上に内需が活発となり、また外需が堅調だったことが挙げられる。
2018年については、アジアと日本の需要は引き続き堅調となる見通し。米シェール由来石化製品がアジアの需給バランスに与える影響が懸念されるが、今年はクラッカーの定修が集中するため影響は限定的となりそうだ。
日本の石化産業は、これまで様々な課題解決に注力してきた。生産能力の最適化では、エチレンクラッカー閉鎖の動きは一段落したが、ポリオレフィンを中心とした誘導品の設備集約は進行中。汎用品から高付加価値品へのシフトでは、誘導品メーカーは、高機能製品のラインアップを拡大する動きが加速している。また、コスト競争力の強化も注力すべき課題だ。
18年以降、北米シェール系石化製品の流入や、中国の石炭化学の台頭により、激しい世界競争に直面する事態が予測されており、生き残りを図るため、クラッカーや誘導品プラントのコスト競争力を今まで以上に高める必要がある。
施策として①石油精製所との垂直連携やコンビナート内外での水平連携の強化②クラッカーからの未利用留分の有効利用と新製品の開発③高効率と低コストを達成するため老朽化プラント対策④省エネルギー追求によるコスト削減、などが必要となるだろう。
そして、安全と環境を守るための施策に注力することも業界全体のテーマだ。石化企業は、供給責任を果たすため、安全・安定操業を最優先としている。安全を強化するために企業は、安全文化の醸成やIoTやAIなど新しいテクノロジーの利用など、様々な方法で管理責任を増加させている。
さらに近年では、地球温暖化といった環境問題解決への貢献も求められてきた。中でもプラスチックの海洋ごみ問題が欧州を中心にクローズアップされ、化学業界の対応に注目が集まっている。
APICのオープニングアドレスでJPCAの森川宏平会長は「海洋廃棄物とマイクロプラスチックの問題に対処する重要なポイントは、プラスチック廃棄物が海洋に流出するのを許さないことだ」とし、「プラスチック廃棄物を回収し、効果的に使用するための枠組みを迅速に確立する必要がある。そのために、各国の経験やベストプラクティスを共有することが非常に重要だ」と述べている。
▽韓国=合成樹脂と合繊原料が回復傾向、輸出は米中向けに伸長
17年の韓国のGDP成長率は前年比0.3%増の3.1%となった。建設業の好調さを背景に国内需要が回復した一方、中国経済の減速と原油価格の下落により輸出の伸びが鈍化した。
18年の韓国経済は、安い原油価格が汎用品の価格を安定させ、雇用や企業生産の増加など緩やかな回復の兆しを見せている。ただ、海外において保護主義や中国経済の成長率など不確定要素がある。また、国内でも内需の大幅な伸びは期待できず、輸出の減速も継続しており、GDP成長率は政府予想の3.0%を下回る見通しだ。
一方、17年の主要石化3部門(合成樹脂、合繊原料、合成ゴム)の生産と需要は、輸出入の増加や好調な対面業界によって増加傾向となった。生産量は、合成樹脂と合繊原料の生産増加により前年比4.3%増の2197万6000t。輸出は、最大の輸出先である中国が輸入を強化したことで同5.7%増の1139万t。国内需要は、建設業界の合成樹脂需要が強く、同3.6%増の1163万1000tとなった。
全体の稼働率は合成樹脂と合繊原料の稼働が上がったことで、89.5%と1.7ポイント改善した。合成樹脂は収益性が高く、稼働率も94.8%と0.5ポイント上昇し、合繊原料も中国市場への輸出が増加したことで稼働率は4.7ポイント改善し82.7%となった。
18年の石化業界は、
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