コロナ前に後戻りはできない、前に向かって「動く」のみ
━昨年を振り返って。
まさにコロナ一色の1年だったと言える。昨年1月後半にはコロナ禍を想定し、BCP(事業継続計画)会議を設置した。社員の健康状態はもちろん、製造、物流関係、在庫状況についてグローバルに報告を受け、迅速に対応することができた。5月に第1波が収まった後も第2、第3波が来てはいるが、BCPで決めた基準に沿って対応しており現時点で問題はない。
また本社の出社率は2~3割程度を継続している。
2021年1月6日
2020年11月21日
化学産業、カーボンニュートラルへの対策が加速
CO2を有効利用、技術力でフロントランナーに
気候変動による異常気象の顕在化、海洋プラスチックごみ問題に端を発した世界的な環境保全への意識の高まりなど、現在、人間社会と地球(資源・環境)との関わり方を改めて見直す局面にある。
2015年に採択されたSDGsやパリ協定では、解決すべき社会課題や環境問題の長期的なビジョンが示された。わが国でも地球温暖化や廃プラスチックに対して意識が高まっており、サーキュラーエコノミー(循環型社会)の実現に向けた技術開発やソリューション提供が大きなテーマとなっている。
世界的に環境貢献が問われる中、経済産業省が今年5月「循環経済ビジョン2020」を策定。さらに菅義偉首相は所信表明演説で、2050年にGHG排出を実質ゼロにすると表明した。化学業界でもCO2の原料化やケミカルリサイクル、またグリーン水素といった実証事業が加速しているが、今後はそれを社会実装するために、業界の垣根を越えた連携が重要となりそうだ。
今回の異業種企画特集では「カーボンリサイクル」をテーマに、行政の方針や業界団体の取り組み、また企業各社のこれまでの成果と課題、事業化に向けた戦略などについて取材した。
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◇インタビュー◇
経済産業省製造産業局素材産業課長 吉村一元氏
▽非連続のイノベーションを創出、脱CO2社会を実現
プラスチック循環利用協会広報学習支援部長 冨田 斉氏
▽プラスチックリサイクルを支援、循環型社会の実現に貢献
三菱ケミカルサーキュラーエコノミー推進部長 金沢大輔氏
▽サステナビリティ事業をサポート、会社全体でCEを加速
旭化成研究・開発本部化学・プロセス研究所長 鈴木 賢氏
▽炭素・水素循環技術を開発、環境分野でトップランナーに
積水化学工業ESG経営推進部長 西山宏喜氏/担当部長 三浦仁美氏
▽新環境長期ビジョンを策定、環境をESG経営のエンジンに
ハイケム代表取締役社長 高 潮氏
▽C1ケミカルが基軸、炭素利用効率を上げ空気と海をきれいに
ちとせグループ最高経営責任者 藤田朋宏氏
▽光合成でCO2を固定、バイマス基点で目指す循環型社会
◇ケミカルリサイクル◇
積水化学工業広報部広報担当課長 中村慎一郎氏
▽BRエタノール技術を社会実装へ、資源循環をシステムで実現
昭和電工プラスチックケミカルリサイクル推進室長 栗山常吉氏
▽使用済プラスチックから水素、液化炭酸ガス、アンモニア製造
2020年11月21日
製造産業局素材産業課長 吉村一元氏
非連続のイノベーションを創出、脱CO2社会を実現
━世界的に環境対策が求められています。
コロナ禍にあっても、国内では環境対策の議論が進んでおり、各企業がそのベクトルに向かって動き出している。その背景として、日本の石炭火力発電に対し世界から厳しい目で見られていることや、国際的にESG(環境・社会・企業統治)投資の動きが加速していることが挙げられるだろう。
こうした状況を踏まえると、日本としても強い技術力を生かして環境分野でフロントを走り続けていかなければならない。これは化学企業にとっても大きなテーマだが、カーボンニュートラルの実現のためには、早い段階での目標設定が必要となることに加え、クリアすべき高いハードルもある。各企業ではすでに具体的な対策を打ち始めているが、一企業の力で全てに対応することは難しく、あらゆる方面との協業や連携などを模索していかなければならない。
2020年11月21日
広報学習支援部長 冨田 斉氏
プラスチックリサイクルを支援、循環型社会の実現に貢献
━プラスチック循環利用協会のこれまでの経緯について。
高度成長期において、1960年代後半、廃プラスチックの処理が社会問題化し、1971年に東京ゴミ戦争が起こり、使い捨てプラスチックが大きな社会問題となっていた。そうした中、石油化学工業協会、塩化ビニール協会(塩ビ工業・環境協会の前身)と日本プラスチック工業連盟は、別々に行ってきた廃プラスチック対策を一本化し、より強力に対応策を実施する組織として、1971年に社団法人プラスチック処理研究協会を設立した。
翌年には事業の拡充により社団法人プラスチック処理促進協会に改称した。2013年の一般社団法人化の移行に伴い、協会の目的を「廃プラスチックの循環的な利用に関する調査研究等を行い、プラスチックのライフサイクル全体での環境負荷の低減に資するとともにプラスチック関連産業の健全な発展を図り、もって持続的発展が可能な社会の構築に寄与する」こととし、協会名も一般社団法人プラスチック循環利用協会に変更した。
━どういった事業に取り組んでいますか。
当協会の事業は、「廃プラスチックの発生・循環的な利用及び処分状況の調査研究、環境負荷の評価手法等適正な利用を促進するための調査研究」「プラスチックおよび廃プラスチックの循環的な利用に関する教育・学習支援並びに広報」「プラスチックおよび廃プラスチックに関する内外関連機関との交流・協力」が3本柱である。具体的には、
2020年11月21日
サーキュラーエコノミー推進部長 金沢大輔氏
サステナビリティ事業をサポート、会社全体でCEを加速
━サーキュラーエコノミー推進部が発足した背景について。
当社は、2017年に3社(三菱化学、三菱レイヨン、三菱樹脂)が統合して発足する前から、親会社である三菱ケミカルホールディングス(MCHC)のオリジナルコンセプト、人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくことを意味する「KAITEKI」の実現を目指しており、10年近くサステナビリティを会社の軸に据えて、環境に貢献する多くの製品を手掛けてきている。こうした中、世の中のトレンドとして、環境や社会の問題解決への期待が高まっており、会社全体としてサーキュラーエコノミー(CE)を推進する部署が必要となってきた。MCHCはCEを重要な戦略と位置づけ、グループ全体の方針を打ち出しているが、当社としての戦略も重要となってくる。また、所管の官庁や業界団体と連携するケースが増加していることや、新領域であるケミカルリサイクル(CR)の一環として、廃プラスチックを収集するリサイクル業界との連携も想定される。こうしたCEに関する案件に対し、窓口を一本化して対応を図るとともに、各事業のCEの取り組みをサポートすることを目的に、CE推進部が4月に立ち上げられた。
━部署の概要についてお聞かせください。
CE推進部は社長直轄であり、まさに和賀昌之社長肝煎りの部署だ。社内横断的に、技術開発者やビジネス担当、また部門もカーボンケミカル(石油化学)などの素材から機能商品まで、年代を含め多種多様な人材が集まっており、まさにダイバーシティを有する組織となっている。私は5月まで、新事業創出部長を務めていたが、それまでもCEやサステナビリティを大きな軸として捉えていた。CE推進部でも、その時の経験が役に立つと考えており、会社全体でCEを加速させていく。
━具体的な数値目標などはありますか。
MCHCの中長期経営基本戦略「KAITEKI VISION 30」では、社会課題の解決に貢献する事業の柱として、6つの成長事業群を掲げた。2030年の売上高目標6兆円のうち成長事業が7割超を占める計画であり、三菱ケミカルとしても思い切ってそちらに舵を切っていかなければならない。CE推進部では全ての成長事業群が関連するが、特に
2020年11月21日
研究・開発本部化学・プロセス研究所長 鈴木 賢氏
炭素・水素循環技術を開発、環境分野でトップランナーに
━カーボンニュートラルにどう取り組んでいますか。
当社は中期経営計画において、持続可能な社会の実現に向け、技術・製品によるGHG(温室効果ガス)削減貢献に取り組むことを方針に掲げている。我々はこの実現に向け、サステナブル技術である炭素・水素循環技術の研究開発に取り組み、CO2固定化・有効利用、水素製造・利用の分野で世界のトップランナーを目指している。
本分野で注力しているテーマの1つは、アルカリ水電解によって再生可能エネルギー由来の電力からグリーン水素を発生させる技術だ。福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドに、世界最大級の10MWの電解システムを納入した。今年3月に稼働を開始しており、このプロジェクトに引き続き注力していく。もう1つは、
2020年11月21日
ESG経営推進部長 西山宏喜氏 / 担当部長 三浦仁美氏
新環境長期ビジョンを策定、環境をESG経営のエンジンに
━環境を経営の真ん中に位置づけてきました。
西山 当社は2000年代前半から環境を中心としたCSRを推進してきた。社内に考え方が浸透してきていることに加え、外部評価機関から高い評価もいただいている。環境というビジョンを明確に定めて、経営を行ってきたことが会社の推進力になった。その中では、我々が追求するべき環境貢献製品を定めてきたことが旗頭として役に立っており、他社との差別化を図ることで事業を伸ばすことができている。
こうした中、積水化学グループとして今年度から長期ビジョン「Vision2030」と中期経営計画「Drive2022」(2020~2022年度)を定め、ESG経営を中心においた革新と創造を掲げている。経営計画の中に新たに持続可能性の要素を入れており、環境課題を
2020年11月21日
広報部広報担当 中村慎一郎課長
BRエタノール技術を社会実装へ、資源循環をシステムで実現
━ごみからエタノールを生産するバイオリファイナリー(BR)エタノール技術について、これまでの経緯をお聞かせください。
当社は創業よりプラスチック加工業を生業としている。その意味において、化石資源で事業が成り立っており、それが枯渇してしまえば持続していくことが不可能だ。プラスチック原料の代替の検討を始めた2000年代前半は、世界経済の発展により原油価格が高騰し資源の調達が難しくなっていた時期でもあった。それなりのボリュームがありエネルギーを確保できる「ごみ」に可能性があるのではないかと着目し、ごみを原料にエタノールを生産する研究に着手した。
2014年からは埼玉県寄居町のパイロットプラントで実証を重ね、様々なハードルをクリアしながら2017年に技術を確立することができた。さらにブラッシュアップを図ってきたが、社会実装には量産化が必要となる。その段階に移行するため、岩手県久慈市に10分の1スケールの実証プラントを建設することを決定した。2022年度中に稼働させる予定で、ごみからエタノールを安定的に量産できる体制を整える。そして、2025年度ごろには事業化を目指す計画だ。
━ランザテック社との協業の経緯と技術的分担について。
ごみから効率的にエタノール化できる手法を持つパートナー候補を模索する中で、米国のランザテック社との協働に至った。ランザテック社は非常に高い確率でCOとH2を栄養源としてエタノール化できる微生物の技術を持ち、鉄鋼業界ですでに実用化されるなど実績を持っている。当社は、
2020年11月21日
川崎事業所企画統括プラスチックケミカルリサイクル推進室長 栗山常吉氏
使用済みプラスチックから水素、液化炭酸ガス、アンモニアを製造
━川崎市で展開する使用済みプラスチックの原料化事業である、KPRを始めた経緯をお聞かせください。
昭和電工がアンモニアの生産を開始したのが昭和6年。原料の水素は、最初は水の電気分解によって製造した。次にナフサや原油などの液体燃料に、その後オフガスへと切り替わり、今は都市ガスを利用している。80年来、原料探索を続け、時代に即したよりよい原料を利用してきた。容器包装リサイクル法(容リ法)の制定を機に廃棄物使用の調査・検討を始める中、宇部興産と荏原製作所が開発した使用済みプラスチック(使用済みプラ)から合成ガスを製造するEUP(荏原宇部プロセス)に出会った。ライセンスを受けて、川崎市が推進する「川崎エコタウン事業」の一環としてKPR(川崎プラスチックリサイクル)をスタートした。
━EUP技術について。
使用済みプラに少量の酸素と蒸気を加え、高温高圧状態でガス化し水素と一酸化炭素の合成ガスを製造する技術だ。荏原製作所の低温ガス化技術と宇部興産の高温ガス化技術を統合し、宇部興産が完成させた。
━KPRプラントについて。
当社は、川崎事業所に処理能力年6.4万tのプラントを建設し、2003年から本格稼働させた。後に年7.5万t(1日あたり約200tに増強している。工程では、
2020年11月21日
ハイケム 代表取締役社長 高 潮氏
C1ケミカルが基軸、炭素利用効率を上げ空気と海をきれいに
━グループビジョンで「炭素利用効率の向上」を掲げられています。
当社グループは宇部興産と共同で、一酸化炭素(CO)と水素の混合ガスである合成ガス(Syngas)からエチレングリコール(EG)を製造する技術、つまりSEG技術の中国企業へのライセンス供与を展開している。
2009年から携わってきた事業だが、このC1由来のEG製品需要が伸びていく中で、SEG技術を起点にC1ケミカルをさらに進展させたいと考えている。今年度からスタートした第5次中期経営計画を策定するにあたり、新たにグループビジョンを制定し、