カーボンニュートラルへの対応、技術革新が課題
わが国化学産業は、新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する中、厳しい環境が続いている。中国の経済活動が回復してきたことで、下期に入り需要は持ち直しつつあるものの、本格的な回復は2022年ごろになるとの見方が強まっており、今年も企業の底力が試される1年となりそうだ。
対面業界を見ると、コロナ禍によって自動車のxEV化や通信業界の「5G」へのシフトが当初の想定よりも加速している。日本メーカーはこれまで技術力で差別化を図ってきたが、中国勢の台頭などにより競争が激化しており、成長戦略の見直しを迫られている。いかに安定収益を確保できる事業ポートフォリオを構築していくかが、今後の大きなテーマとなりそうだ。
一方、コロナ禍によって地球環境や社会のサステナビリティへの関心がいっそう高まる中、菅首相が2050年カーボンニュートラル宣言を表明した。今後、グリーンエネルギーへのシフトに加え、CO2を削減・有効利用するための方向性が示されると見られる。化学企業は、各社がもつ技術力によってイノベーションやブレークスルーを起こし、ソリューションプロバイダーとしての役割を果たしていかなければならないだろう。
今回の「新年特集号」では、先行き不透明感が強まる中、コロナ禍による新常態をいかにビジネスチャンスに転換していくのかを全体のテーマに掲げ、化学業界を代表する首脳の方々に戦略や展望を聞いた。
─────────────────────────────────────────────
◇インタビュー◇
三菱ケミカル代表取締役社長 和賀昌之氏
▽サーキュラーエコノミーを世界的視野で推進、新組織も始動
旭化成代表取締役社長 小堀秀毅氏
▽慣習にとらわれず課題を解決、これからの時代を切り拓く
三井化学代表取締役社長 橋本修氏
▽ICTを第4の柱へと成長を加速、ヘルスケアも事業拡充
積水化学工業代表取締役社長 加藤敬太氏
▽昨年は構造改革が進展、中継目標達成と業容倍増を追求
東ソー代表取締役社長 山本寿宣氏
▽コロナとCO2への対応が課題、研究開発ではMIに注力
昭和電工代表取締役社長 森川宏平氏
▽統合プロセスは順調、化学の力で世界を変える会社を目指す
JSR 代表取締役社長兼COO 川橋信夫氏
▽コロナ前に後戻りはできない、前に向かって「動く」のみ

 2020年度の通期の見通しは、売上高2兆340億円、営業利益1400億円、経常利益1420億円、純利益870億円とした。マテリアル領域を中心に新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受け、残念ながら対前年比で減益となる見通しだ。当社グループの多様性を生かして、新型コロナの影響をできるだけ回避すべく経営に取り組んできた。しかし、行動制限により生産や消費活動が低迷したことにより、マテリアル領域を中心に自動車関連やアパレル関連などの需要が減少したことに加え、石化市況変動の影響を受けた。
 昨年を振り返ると、4月が底で4~6月の事業環境は厳しく、7月以降に多少まだら模様ではあったが、マーケットが全体的に回復し始めてきたと感じている。当社が多く関わる自動車関連ビジネスについても、自動車の販売台数は4~6月が底で、7月からは徐々に戻り始めた。足元では中国はほぼ回復してきており、対前年比でもプラスになる見通しだ。米国も思ったほどは悪くはなく、欧州も回復の兆しが見えてきている。
 当社も新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けたが、結果として上期は計画以上の利益を達成することができた。その要因として、市況の回復に頼るのではなく、構造改革や固定費抑制を徹底したことで、前倒しで効果を発現できたことが大きい。下期については、コロナ禍からの回復を前提に当初予算を策定したが、たとえ回復が遅れたとしても、社会課題解決に寄与する製品の拡販と固定費削減の徹底により、通期業績予想の営業利益700億円は達成できるだろう。
 やはりコロナ禍の影響を大きく受けた年だった。上期(4-9月期)の業績は、需要の減少や市況の下落により4-6月期は営業赤字となった。その後、感染拡大が落ち着いたこともあり、7月以降は少しずつ需要が回復したことで、上期は黒字にすることができた。下期に入ってからは、さらに需要が戻りつつあり販売数量が増加している。中期経営計画の数値目標を達成することは厳しいが、下期の増益によって、通期の営業利益率8%を確保したいと考えている。
 2020年はやはり新型コロナウイルス感染症が最大のリスク要因となり、社会や経営、事業など様々な場面に大きな変革をもたらすトリガーになった。当初の想定をはるかに超え、世界中で工場の操業停止や飲食店の営業停止をもたらし、市民生活や企業に極めて大きな影響を与えている。
 まさにコロナ一色の1年だったと言える。昨年1月後半にはコロナ禍を想定し、BCP(事業継続計画)会議を設置した。社員の健康状態はもちろん、製造、物流関係、在庫状況についてグローバルに報告を受け、迅速に対応することができた。5月に第1波が収まった後も第2、第3波が来てはいるが、BCPで決めた基準に沿って対応しており現時点で問題はない。