北大など プロピレン製造で超高耐久な新規触媒を開発

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2020年6月15日

 北海道大学と京都大学、東京都立大学の共同研究グループは、プロパン脱水素によるプロピレン製造過程で、高温条件下、世界最高の耐久性と選択性を示す新規合金触媒の開発に成功した。開発したのは、白金(Pt)とガリウム(Ga)の合金ナノ粒子の表面に鉛(Pb)を添加した触媒(PtGa‐Pb/SiO2)。

 研究グループは、この新規な触媒が、プロパン転化率30%、プロピレン選択率99.6%の高い触媒性能を600℃の高温下で、96時間以上もの長時間維持できる、極めて高い耐久性を持つことを見出だした。プロピレン製造時の触媒再生コストの大幅な削減が期待される。

 プロピレンはプラスチックや合成ゴム、香料、医薬品といった様々な化成品の原料となる石油化学工業の重要な基幹物質。近年、シェールガス由来の安価なプロパンからプロピレンを製造するプロパン脱水素の需要が高まっているが プロピレンを高い収率で得るには600℃以上の高温を要するため、現行の工業プロセスでは炭素析出による触媒の著しい劣化が問題となっている。安定的なプロピレン製造には連続的な触媒の再生工程が必要になり、コスト削減の観点から高温でも劣化しない高耐久な触媒の開発が望まれていた。

 同研究では、ユニークな性質と構造を持つPtとGaの合金(PtGa金属間化合物)に着目。PtGaは、熱安定性が高く高温でも構造が変化しない利点のほか、3つのPt原子からなる「Pt3サイト」と、1つのPt原子が複数のGa原子に囲まれ孤立した「Pt1サイト」の2種類の触媒活性点が表面に存在する特徴がある。

 研究グループは、このうちPt3サイトはプロピレン生成だけでなく炭素析出も進行させてしまう一方、Pt1サイトがプロピレンを選択的に生成し、炭素析出を抑える優れた触媒活性点として機能すると予想。「Pt3サイトを何らかの方法で塞げば、耐久性の高い触媒を開発できる」と考えた。そこでPt3サイト上だけに触媒活性を持たない別の種類の金属原子を置くことを検討し、様々な種類の金属や触媒合成手法を駆使することでPt1サイトだけが機能する新たな触媒の開発に取り組んだ。

 同研究により明らかになったPt1サイトの優れた触媒性能は、プロパンだけでなくエタンやイソブタンなど、その他の低級アルカンの脱水素やメタンの有効利用などにも応用できる可能性が高い。石化の発展に大きく寄与するとともに、触媒・材料開発の面でも幅広い波及効果が期待される。

北大など 中面用の写真

 

 

北海道大学 AIプラットフォームの開発を成功、触媒設計を加速

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2020年5月8日

 北海道大学はこのほど、触媒データをオープンに共有でき、プログラミングを必要としない機械学習・データ可視化を可能とした触媒インフォマティクス・プラットフォーム「Catalyst Aquisition by Data Science(CADS)」の開発に成功し、ウェブ上で公開を開始した。近年、AIを適用した触媒開発が活発化しており、触媒インフォマティクスと呼ばれる新規分野として、学術界・産業界から注目されている。

 触媒インフォマティクスは多くの技術の融合分野で専門性が高い上、高度なプログラミング技術を必要とすること、各々の触媒研究者の所有するデータを統合的に蓄積・共有するデータセンターが存在しないことが、触媒インフォマティクスを推進する上で大きな障害であった。

 今回開発されたプラットフォームによって、研究者が持つデータの可視化や機械学習による触媒設計が可能となった。プログラミングやデータ科学の事前知識がなくても、ウェブブラウザ上での簡単なマウス操作で、触媒インフォマティクスを用いた触媒設計ができる。

 また、各自の触媒データをアップロードすることにより、世界の触媒研究者と情報共有でき、触媒データセンターとしての役割も果たせる。実際にOCM(メタン酸化カップリング)触媒データをCADSで分析し、インタラクティブ可視化などによって、OCMの反応収率に影響する要因の切り口を見いだした。今後CADSの普及により、データ駆動型の効率的かつ直接的な触媒設計が加速すると期待される。

 なお、同研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」研究課題「実験・計算・データ科学の統合によるメタン変換触媒の探索・発見と反応機構の解明・制御」の支援を受けて実施された。また、研究成果は4月に「Reaction Chemistry & Engineering」誌にオンライン公開された。

ダイセル・北大 AD予防に植物性セラミドの有効性を発見

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2019年12月23日

 ダイセルはこのほど、北海道大学との共同研究により、同社の機能性食品素材である植物性(こんにゃく由来)のセラミドが、アルツハイマー病(AD)の発症を予防する効果を持つことを発見したと発表した。

 こんにゃくセラミドは全身のうるおいを保つ効果を持ち、美容サプリメントや飲料などに使用されている。ダイセルと北大は、2016年に同学内の「次世代物質生命科学研究センター」内に共同で設置した産業創出講座を中心に、こんにゃくセラミドなど、同社の機能性食品素材の効能を研究してきた。そして今回、北大の五十嵐靖之招聘客員教授、湯山耕平特任准教授らとの研究により、こんにゃくセラミドにAD発症の予防効果があることを発見した。

 ADの発症は「アミロイドβペプチド(Aβ)」が脳内に過度に蓄積することが原因の1つとされる。五十嵐教授らのグループは、Aβが「エクソソーム」という物質と結合することで分解・除去されることを解明してきた。

 今回の研究では、Aβが過剰に発現したマウスに対し、こんにゃくセラミド1日1㎎の経口投与を2週間継続したところ、血液・脳内のエクソソーム量の上昇などが確認され、こんにゃくセラミドに神経細胞由来のエクソソーム分泌を促す作用があることを確認。さらに、増加したエクソソームがAβを分解・除去し、脳内のAβ濃度が低下して、短期記憶の改善効果が認められた。

 こんにゃくセラミドは、AD発症を防止できる可能性があり、今回の知見は新たな機能性食品や新薬開発に繋がることが考えられる。両者は今後、さらにヒト介入試験により、こんにゃくセラミドの認知機能改善効果について検証していく予定だ。

 なお、この研究の成果は、11月14日公開の「Scientific Reports誌」に掲載された。ダイセルは今後も、社会的課題の解決に貢献する素材を提供していく考えだ。