三菱ケミカルグループ、慶應義塾大学、日本IBMはこのほど、IBM Quantum Network Hub(慶大量子コンピューティングセンター内)において、「光機能性物質のエネルギーを求めるための量子コンピューターを用いた新たな計算手法」を開発したと発表した。論文が世界的に権威のあるネイチャー系専門誌に掲載されている。
3者は、
2023年2月22日
2023年2月20日
2021年5月27日
三菱ケミカル、JSR、日本IBM、慶應義塾大学は26日、「IBM Qネットワークハブ」(慶應大量子コンピューティングセンター内)で以前から取り組んでいた「量子コンピューターを用いた有機EL発光材料の性能予測」の研究プロジェクトで得られた成果に関する論文が、世界的に権威のあるNature Research出版社の専門誌「npj Computational Materials」に掲載されたと発表した。
同研究プロジェクトは、有機EL発光材料の1つであるTADF材料の励起状態エネルギーの計算を実施するため、三菱ケミカルとIBMが主導し、JSRや慶應大と共に取り組んできた。従来から量子コンピューターによる計算は実機特有のエラーの発生が課題となっていたが、今回、同プロジェクトではエラーを低減させる新たな測定手法を考案し、計算精度を大幅に向上させることに成功した。量子コンピューター実機を用いて実用材料の励起状態計算に成功したのは、世界初の成果となる。
今後、実機の計算能力の進化と共に従来以上に精密な計算を行えるようになり、より発光効率の高い材料設計に寄与することが期待される。同研究チームは今後も、量子コンピューターを幅広い材料開発に用いるための研究を進めていく。
2019年9月13日
慶應義塾大学と東京大学の研究グループはこのほど、実験主導型のマテリアルズ・インフォマティクス(MI)により、リチウムイオン二次電池(LIB)の負極となる世界最高水準の性能をもつ有機材料の開発に成功した。
同研究では有機材料の新たな設計指針を確立するとともに、極めて少ない実験数で高容量・高耐久性の材料が得られる手法を示した。同開発は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「さきがけ」によるもの。
電池の省資源化に向けて、LIBの負極として金属を使わない有機材料が求められるが、従来は研究者の試行錯誤や経験と勘で探索されており、設計指針は明らかでなかった。
一方、MIは研究者の経験と勘の関与を減らすための手段だが、一般的に、大規模なデータ(ビッグデータ)に対して機械学習を行うため、実験科学者の小規模な自前データや経験知をどう活用するかに課題があった
。そこで、慶大理工学部の緒明佑哉准教授らの研究グループは、東大大学院新領域創成科学研究科の五十嵐康彦助教らと共同で、小規模でも比較的正確な実験データと実験科学者の経験と勘を融合した「実験主導型MI」の手法を探索した。
具体的には、まず16個の有機化合物について負極としての容量を実測し、容量を決定づけている少数の要因をスパースモデリングで抽出した。スパースモデリングとは、現象を説明する要因は少数(スパース)であるという仮定に基づき、適切な規範に従ってデータに含まれる主要因を抽出するデータ科学的手法の一つ。
この学習結果をもとに、抽出した因子を変数とした容量予測式(予測モデル)を構築。次に、市販の化合物の中から、研究者の経験と勘も交えながら、負極としてある程度の容量が見込まれる11個の化合物を選び、実験をする前に容量の予測値を算出した。
予測値の高かった3個の化合物について容量を実測すると、2個の化合物で高容量を示した。さらに、そのうちの1つであるチオフェン化合物を重合すると、容量・耐久性・高速充放電特性が向上した高分子の負極材料が得られた。
同研究では、少ない実験データ、研究者の経験と勘、機械学習を融合し、高性能な材料の探索に成功したことから、材料探索を効率化する上で、実験科学とMIの融合の有効性を明らかにした。また、今回確立した有機負極材料の設計指針により、さらなる性能向上や新物質の発見が期待されている。
2019年6月12日
JSRは11日、肝移植以外に有効な治療法が少ない難治性自己免疫性疾患である原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療、診断に関わる研究成果の独占的実施権を慶應義塾大学から取得したと発表した。
また、バクテリオファージ(細菌に感染するウィルスの総称)を用いた細菌感染症治療薬の開発を進めている、イスラエルの創薬ベンチャーのバイオムX社に対し、同研究成果のうちファージセラピーへの応用に限定した独占的再実施許諾を行った。
慶應義塾大学医学部消化器内科(金井隆典教授)の研究グループは、腸内細菌叢の乱れに乗じて、通常は口腔などに存在するクレブシエラ菌などが腸管内に定着し、腸管バリアを破壊して腸管の外にあるリンパ節に移行することで、肝臓内のTh17細胞と呼ばれる免疫細胞の過剰な活性化を引き起こし、PSCの発症に関与する可能性があることを明らかにした。
その成果は、1月14日にネイチャー・マイクロバイオロジー誌に掲載され、腸内細菌を標的としたPSCに対する新たな治療薬や診断薬の開発につながることが期待される。
一方、慶應義塾大学からの独占的実施権取得に基づくバイオムX社への独占的再実施権許諾は、慢性炎症性腸疾患の治療、診断に関わる研究成果(昨年1月30日)に続き、2件目となる。
JSRは、JSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター (JKiC)での取り組みを通じて、腸内細菌叢の恒常性維持に関わる技術と診断薬の開発を進めていく。
また、バイオムX社では、PSCの発症に関与していると考えられるクレブシエラ菌を標的とするファージセラピーの開発を進めていく。
ファージセラピーは、標的とする細菌のみを殺傷できるという特徴がある。抗生物質のように腸内細菌叢の攪乱を起こさないため、抗生物質耐性菌による院内感染などが社会問題化する中、抗生物質に代わる細菌感染治療法として再び注目されてきている。
JSRグループは、オープンイノベーションにより革新的な材料や製品の開発に取り組んでいく。