阿部副社長「社会的課題解決に技術革新が不可欠」
東レはこれまで、基礎研究を重視する「超継続」や興味のある分野を自由に研究する「アングラ研究」を推進し、先端材料を創出することで新しい価値を提供してきた。
先日開催された事業説明会の中で、阿部晃一代表取締役副社長・技術センター所長(CTO)は「東レは過去90年以上、先端材料を自社開発し、それらとシナジーのある戦略的連携、M&Aを行うことで事業拡大してきた。キーワードは〝研究技術開発こそ明日の東レを創る〟であり、
2020年6月15日
2020年6月8日
日覺社長「コロナ禍も成長機会を捉え事業拡大」
東レは、今後10年先を見据えた長期経営ビジョン〝TORAY VISION 2030〟を策定し、それを踏まえた中期経営課題〝プロジェクトAP‐G 2022〟(2020~22年度)をスタートさせた。すでに総括的な説明を行っていたが、改めて事業別の説明会を2日間にわたりオンラインで開催した。
初日に挨拶に立った日覺昭廣社長は、「中長期的な東レグループの在るべき姿は明白であり、実行すべき課題はコロナ禍によって大きく変わるものではない」とコロナ禍による不透明な状況下で中計を発表した理由を述べた。そして「コロナ終息が
2020年5月29日
東レは、今後10年間程度の期間を見据え、長期経営ビジョン〝TORAY VISION 2030〟―持続的かつ健全な成長と社会的な価値の創造―(ビジョン 2030)を策定した。
東レグループの強みである「研究・技術開発」「営業」「生産」が相互に連携し合いながら、素材を起点にサプライチェーンを構成する顧客や取引先などとの共創を通じて、社会に新しい価値を提供し、「サステナビリティ・ビジョン」に示す4つの世界像の実現を目指す。2030年度の数値目標として、2013年度実績比でGR(グリーンイノベーション)売上高・売上収益4倍、LI(ライフイノベーション)売上高・売上収益6倍、CO2削減貢献量8倍などを設定した。
一方、長期ビジョンを踏まえた新たな3年間(2020~22年度)の中期経営課題〝プロジェクト AP‐G 2022〟「強靱化と攻めの経営」―持続的な成長と新たな発展―(AP‐G 2022)の取り組みを開始。新中計では、東レグループ全体で中長期に創出する価値を最大化し、将来にわたって持続的な成長を可能にする強靱な事業基盤を構築して、ビジョン2030の実現に向けた一歩を踏み出す。
具体的には「成長分野でのグローバルな拡大」「競争力強化」「経営基盤強化」を基本戦略に掲げ、全社横断プロジェクトとして「GR事業拡大プロジェクト」「LI事業拡大プロジェクト」「トータルコスト競争力強化(NTC)プロジェクト」を展開。中でもNTCプロジェクトでは、3年間累計で1500億円のコスト削減を目指す。同時に、重要課題として「循環型社会実現に向けた取り組み」「生産段階での排出削減の実現」「デジタル活用による経営の高度化」「人材確保・育成」を推進する。
2022年度に目指す数値目標は、IFRSベースで売上収益2兆6000億円、事業利益1800億円、事業利益率7%、ROA約7%、ROE約9%、フリー・キャッシュ・フロー1200億円以上(3年間累計)、D/Eレシオ0.8程度、配当性向30%程度を掲げている。設備投資は3年間累計で5000億円とし、50%はGR事業やLI事業などの成長拡大に投資する。
M&Aについては、設備投資とは別枠で戦略的に実施する。また、研究開発費は2200億円規模を設定し、将来の大型テーマや高収益テーマにリソースを配分していく方針だ。
2020年5月29日
東レは28日、2020年3月期の連結決算を発表した。売上高は前年度比7%減の2兆2146億円、営業利益7%減の1312億円、経常利益23%減の1034億円、純利益30%減の557億円となった。
セグメント別に見ると、繊維事業は売上高9%減の8831億円、営業利益17%減の607億円。米中貿易摩擦の長期化と中国経済の減速などにより各用途で市況低迷の影響を受けた。また、国内外ともにコロナ禍による生産活動・消費行動停滞の影響を受けた。
機能化成品事業は売上高11%減の7708億円、営業利益13%減の587億円。樹脂事業は、中国経済の減速とコロナ禍による生産活動停滞の影響を主因に自動車・家電用途とも低調に推移。ケミカル事業は、基礎原料の市況下落の影響を受けた。フィルム事業は、LIB用セパレータフィルムが売上を拡大したが、ポリエステルフィルムでは光学用途や電子部品関連が在庫調整の影響を受けた。電子情報材料事業は、有機EL関連部材や回路材料が好調だった。
炭素繊維複合材料事業は売上高10%増の2369億円、営業利益82%増の210億円。航空機向け需要や、環境・エネルギー関連向け一般産業用途が好調に推移したほか、スポーツ用途の需要が回復するなど、総じて堅調に推移した。
環境・エンジニアリング事業は売上高2%減の2523億円、営業利益8%減の112億円。水処理事業は、国内外で逆浸透膜などの需要がおおむね堅調に推移した。国内では、建設子会社が高収益案件の受注減少の影響を受けたほか、エンジニアリング子会社でエレクトロニクス関連装置の出荷が減少した。
ライフサイエンス事業は売上高1%減の533億円、営業利益25%増の16億円。医薬事業は、経口そう痒症改善薬「レミッチ」が後発医薬品発売の影響を受けたが、市場全体の伸びもあり、堅調な出荷となった。
なお今年度からIFRSに移行。通期業績予想は、新型コロナの感染拡大が第2四半期にピークアウトし、下期以降、国内外の経済は回復基調をたどることを前提に、売上収益8%減の1兆9200億円、事業利益44%減の700億円、親会社所有者帰属当期純利益52%減の400億円を見込む。
2020年5月27日
東レはこのほど、「有機EL絶縁膜用ポリイミド(PI)コーティング剤の開発」について、文部科学省より「令和2年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞開発部門」を受賞した。同社が長年培ってきた感光性ポリイミド技術を深化させ、有機ELディスプレイの発光信頼性と同パネルの生産性を著しく向上したポジ型感光性PIの開発が評価された。
有機ELディスプレイは、薄型・軽量・動画表示に優れ、テレビやスマートフォンなどへの搭載が急拡大している。その部材である有機EL発光層は水分や不純物ガスに極めて敏感で劣化しやすいため、アウトガス発生の極めて少ない長期信頼性に優れる画素分離絶縁層が必要不可欠。
また、有機ELディスプレイを大量生産するには、フラットパネル生産工程で同絶縁膜を少量で塗布できるスリットダイコーティング法(ノズルで吐出コーティングする方式で、基板サイズは最大10㎡程度)が適しているが、従来のPIコーティング剤では塗布ムラなどの外観品位が悪く、この方式は適用できなかった。
同社は、化学的に安定で耐熱性に優れるPI材料技術を深化させ、PI前駆体樹脂、感光剤および溶剤から成るPIコーティング剤に、沸点の異なる溶媒を特定比率で組み合せることにより、高い信頼性と量産性を両立させた有機EL絶縁膜用PIコーティング剤を開発。
同開発品は、従来のスピンコーティング法(中央に滴下した塗液を回転させながら全体へ塗り広げる方式で、基板サイズは一般に0.5㎡以下)用PIコーティング剤と比べ、10分の1の塗布量で生産することが可能。外観品位に優れたスリットダイコーティング用の感光性PIを世界で初めて商業化し、広く採用されている。
今回受賞した技術は、有機ELディスプレイの大量生産と普及拡大に貢献すると同時に、塗布廃液ロスの劇的な削減を実現しており環境調和にも寄与している。また有機ELディスプレイはフレキシブル化が可能で、折り曲げ型端末、ウエアラブル端末、車載用途など、多彩な曲面デザインの実現による市場拡大が期待されている。
同社は感光性PI技術をさらに深化させ、有機ELディスプレイのさらなる普及と社会の発展に貢献していく考えだ。
2020年5月20日
東レはこのほど、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)「トレファン」の生産能力を増強すると発表した。東レ土浦工場(茨城県土浦市)に生産設備を増設し、2022年の稼働を予定。車載コンデンサ用フィルムの需要拡大に対応するため、生産能力を現行比1.6倍に拡大する。
「トレファン」はプラスチックフィルムの中でも軽く、強靱性・電気特性・機械的特性に優れたフィルム。主力用途であるフィルムコンデンサは、家電・IT機器向け電子部品のほか、電動化車両(xEV)のモーターを駆動させるパワーコントロールユニット(PCU)のインバーター回路に使用されている。
xEVの運転性能と燃費の向上、さらには車内空間の確保と設計の自由度向上のためには、PCUやフィルムコンデンサの小型・軽量化が求められている。これには、フィルムを薄膜化することが最も有効だが、薄膜化すると耐電圧性が悪化するという課題があった。
「トレファン」は、独自技術により薄膜化と高耐電圧化の相反する性能を両立できることから、車載コンデンサ用フィルム市場ではトップシェアを持つ。近年、世界各国・地域で自動車に対する環境規制強化が進み、xEV市場は環境規制の厳しい欧州や中国を中心に年率約20%の高成長が見込まれている。今後のさらなる車載コンデンサの需要拡大に応えるため、土浦工場での「トレファン」の生産能力増強を決定した。
東レは今後も「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の企業理念の下、土浦工場での早期の生産能力拡充により、成長市場の取り込みを図り、より一層の事業拡大を目指す考えだ。
2020年5月19日
東レはこのほど、理化学研究所の開拓研究本部前田バイオ工学研究室・杉田理論分子科学研究室との共同研究を通し、逆浸透膜(RO膜)の透水・物質除去機能の向上に寄与する重要知見を獲得した。
透水・物質除去機能を担うポリアミド(PA)分子同士が形成する相互作用のネットワークの強さと、水分子の拡散挙動の関係を明らかにしている。東レは、解析結果を活用し、かん水淡水化、廃水再利用および廃水をゼロ化するZLD(Zero Liquid Discharge)向けの革新省エネルギーRO膜を始めとした、先端分離材料の開発を加速していく方針だ。
世界では、地球規模の水不足・水質汚濁などの問題が深刻化しつつあり、安全な水の確保はSDGsの重要なテーマ。RO膜を用いた浄水技術は、持続可能な水資源を確保するための技術として、世界各地での採用が進んでいる。しかし、従来のRO膜では、造水量を高めると水質が低下してしまうトレードオフの関係があるため、高品質の水を得るための除去性能と省エネルギーを実現する透水性能の向上には、RO膜中での水分子の拡散挙動の詳細解明が望まれていた。
研究グループは、RO膜のPA分子構造でのPA分子同士および水分子との相互作用を解析し、PA分子集合体中の水分子の集合状態と運動性に及ぼす影響の解明に成功。その結果、PA分子同士が形成する相互作用のネットワークが疎なほど、水分子同士の相互作用が促され、運動性の高い水分子の集合体が形成されることを確認した。
東レはすでに東京大学との共同研究によりPA分子集合体中のPA分子と相互作用して動きにくい「束縛水」と、運動性の高い「自由水」の関係性を解明しており、自由水は束縛水と比べて10倍以上速く拡散することを見出だしている。これらの研究成果を応用し、微細な細孔の構造とその中での水の動きを精密に制御できれば、透水・除去性能に優れた高性能RO膜が得られる。
なお、今回の研究成果は、科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の事業・研究プロジェクトによって得られた。
東レは今後も、地球上の誰もが十分にきれいな水を手に入れられる社会の実現に寄与するため、産学官の連携により、世界各地への社会実装を目指して研究・技術開発を推進していく。
2020年5月13日
東レは、蛍光体を用いた波長変換技術を活用し、輝度を従来比約30%向上させたX線シンチレータパネルを開発した。同パネルを肺疾患などの診断用医療用X線撮影装置のX線検出器に適用することで、より明瞭な患部の観察や被曝量の低減が可能となる。今年度初めから販売を開始する予定。
医療用X線撮影装置のX線検出器は、一般的にX線を可視光線に変換する「シンチレータパネル」と可視光線をデジタル画像に変換する「フォトセンサーパネル」により構成される。
シンチレータパネルはX線を吸収して可視光線を放射する厚さ数百ミクロンの蛍光体層からなっており、蛍光体としてCsI(ヨウ化セシウム)やGOS(酸硫化ガドリニウム)が用いられる。CsIは光透過性がよく輝度も高いが、長時間の蒸着工程や防湿シーリングが必要なため、高コストである。一方、GOSは基材に蛍光体を塗布するだけで製造が可能なため製造コストが低く、X線に対して高安定性・高耐久性であるが、輝度が低いという課題があった。
同社は、ディスプレイ材料開発で長年培ってきた蛍光体による波長変換技術を活用し、GOSの輝度を大きく向上させる技術の実用化に成功。GOSの発光スペクトルのうち、フォトセンサーパネルの感度が低い短波長領域(350~400㎚付近)の光を、感度が高い波長領域(550㎚付近)の光に変換する第2の蛍光体をGOSに加える独自の配合技術を開発。この技術による蛍光体層「GOS-α」は、GOSの低コスト・高安定性・高耐久性のまま、輝度を約30%向上することを可能とした。
同社はGOSを用いたX線シンチレータパネルの量産を2016年度より開始し、医療用の一般X線撮影用途で採用されている。今回開発した「波長変換型X線シンチレータパネル」を用い、さらに同社独自の高鮮鋭度化技術である「セル方式シンチレータ」と組み合わせることで採用範囲を拡大し、X線シンチレータパネル事業のさらなる拡大を目指す考えだ。
同社の企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を実現するために、社会を本質的に変える革新素材の創出に取り組み続ける方針。
2020年4月23日
東レはこのほど、エンドトキシン除去向け吸着型血液浄化用浄化器「トレミキシン」について、カナダでの新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の治療に対する暫定的な使用許可をカナダ保健省より取得したと発表した。
COVID‐19は、新型コロナウイルスによって引き起こされ、重症化に伴って呼吸器をはじめとする臓器不全を合併する感染症。現在の深刻な感染拡大に対し、カナダ保健省はCOVID‐19に関連する医療機器の輸入と販売に関する暫定措置「Interim order respecting the Importation and sale of medical devices for use in relation to COVID‐19」を発表。
「トレミキシン」は敗血症性ショックを適応とした輸入許可を2003年に取得しているが、東レは同暫定措置に基づく申請を行い、拡大使用が認められた。なお、米国では、ライセンス先企業が臨床試験としてCOVID‐19患者に対して使用することについて、FDAの承認を取得している。
2020年4月16日
東レはこのほど、同社グループのグローバルな生産設備をフル活用し、国内向けにマスク用不織布の供給体制を強化・拡充する方針を決定した。
同社は海外子会社でマスク用不織布の増産を進めており、現在国内の大手マスクメーカーを中心に、月産マスク約3000万枚分の供給を行っている。まずは、これらの設備でさらなる増産を行い、来月から約6000万枚分にまで拡大する。
一方、国内でも、滋賀事業場内の不織布試験設備の量産化検討に着手しており、来月以降、月産最大で約2000万枚分の国内供給体制の確立を計画している。加えて、医療関係者用の防護服についても、国内外を含めた生産・供給体制を早期に確立し、国内に供給していくことを検討中だ。
東レグループは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念に基づき、社会貢献を企業の目的の最優先事項として事業として取り組んできた。2050年に目指す世界を展望し策定した「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の中でも、革新技術と先端材料によって世界的な課題の解決に貢献することを目標に掲げている。
同社は今後も、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、政府の策定する行動計画に基づき、必要な対策を実行するとともに、早期の終息とその後の社会・経済の発展に、全社を挙げて尽力していく方針だ。