浜松ホトニクスなど 指先サイズの波長掃引レーザー開発

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2021年9月8日

 浜松ホトニクスはこのほど、独自の微小電気機械システム(MEMS)技術と光学実装技術を活用し、従来製品の約150分の1の世界最小サイズの波長掃引量子カスケードレーザー(QCL)を開発した。これにより、全光学式の分析装置を小型化できる。 

従来比約150分の1となる世界最小サイズの波長掃引QCL
従来比約150分の1となる世界最小サイズの波長掃引QCL

 火山の噴火予知のために火口付近の火山ガス中の二酸化硫黄や硫化水素などをモニタリングする際、電極でガスを検知する電気化学式センサーによる分析装置が多く使われるが、電極は火山ガスと接し性能劣化し短寿命であるため、長期間の安定的モニタリングにはメンテナンスが欠かせない。また全光学式の分析装置は、省メンテナンスで高感度、長期間安定して使用できるものの、光源が大きく装置が大型であるため、火口付近への設置は難しい。

 そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」で、同社と産業技術総合研究所(産総研)は昨年から小型・高感度・高メンテナンス性の全光学式次世代火山ガスモニタリングシステムの研究開発に取り組んでいる。

 光源のQCLは、中~遠赤外波長領域の高出力半導体レーザー。波長掃引QCLは、その光を高速で角度が変化するMEMS回折格子で分光し、波長を高速で周期的に変化させて出力する。MEMS回折格子を従来比で約10分の1に小型化し、小型磁石の採用と独自の光学実装技術により、従来の約150分の1にまで小型化(約5㎤)した。仕様は波長分解能約15㎚、掃引波長範囲7~8㎛、掃引時間20ミリ秒以下、最大ピーク出力約150㎽だ。これを産総研開発の駆動システムと組み合わせることで、高速動作と周辺回路の簡略化を実現し、光源として搭載することで分析装置を持ち運び可能なサイズまで小型化できる。

 今後、小型・高感度・高メンテナンス性の次世代火山ガスモニタリングシステムを構築し、多点観測などの実証実験を進める。また、浜松ホトニクスは同開発品と駆動回路や同社の光検出器を組み合わせたモジュール製品を2022年度内に発売し、化学プラントや下水道での有毒ガスの漏えい検出や大気計測など、応用拡大を図っていく考えだ。

NEDOなど 世界最高出力のパルスレーザー装置を開発

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2021年7月13日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と浜松ホトニクスはこのほど、NEDOの「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」プロジェクトで半導体レーザー(LD)励起では世界最高のパルスエネルギー出力250J(ジュール)の産業用パルスレーザー装置を開発した。エネルギー増幅能力は、従来の同程度サイズの産業用パルスレーザー装置の2倍以上だ。

 レーザーは加工条件などのデジタル制御が容易で、IoTやAI(人工知能)によるクラウドを通じた生産設備の連携と自動化・無人化における最重要ツールの1つ。加工用レーザーには一定強度のレーザー光を連続出力するCW(連続波)レーザーと、短い時間間隔で繰り返し出力するパルスレーザーがあるが、CWレーザーは溶接や切断などレーザー加工の主流である。パルスレーザーは高強度のLDや大型のレーザー媒質がなく高出力装置がないため、レーザーピーニング(衝撃波による金属の硬化加工)などの利用以外に、応用開拓が進んでいない。

 今回、レーザー媒質として最適化した世界最大面積のセラミックス10枚を搭載し、光エネルギーの蓄積能力を約2倍に向上。また、増幅器の設計を見直し、新開発の小型LDモジュール8台を照射角度や位置などを工夫して搭載し、レーザー媒質の励起効率を約2倍に向上させた。さらに同社独自の高出力レーザー技術で装置全体の光学設計を最適化し、集光性や照射面に対する出力分布の均一性などビームの品質を上げた。これらにより、パルスエネルギー出力250Jの産業用パルスレーザー装置を実現した。

 この性能を維持したままビームサイズを4倍に拡大することで、1kJ級レーザーを実現できる可能性を確認した。これにより、レーザー加工技術の発展に加え、医療やエネルギー、新材料、基礎科学といった新分野でのレーザーの応用開拓も期待される。

 両者は今後、高効率レーザープロセッシング推進(TACMI)コンソーシアムと連携し、同装置を用いたレーザー加工実験と加工データを集約したデータベースの構築を進め、浜松ホトニクスは1kJの産業用パルスレーザー装置の実現に向けた研究に取り組んでいく。

 

NEDO レーザー技術を連携、プラットフォーム構築

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2021年3月10日

 NEDOはこのほど、事業成果を集約し、各装置がもつ加工品質の計測・評価技術やデータベースといった共通基盤技術を組み合わせることで、レーザー加工の課題解決に寄与する「柏Ⅱプラットフォーム」を構築した。

 NEDOが実施中のプログラム「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」(2016~2020年度)では、東京大学、産総研、三菱電機、スペクトロニクス、大阪大学、浜松ホトニクス、パナソニック、パナソニック スマートファクトリーソリューションズ、金門光波、千葉工業大学、レーザー技術総合研究所、ギガフォトン、島津製作所などが参画し、様々な特徴をもつ、最先端のレーザー光源・加工機を開発してきた。

 特に、難加工材の高品位加工を目指した今までにない短波長の高輝度レーザー加工機や、広範囲の焼き入れ加工などを可能とする高出力半導体レーザー、銅のマイクロ溶接などで期待される高出力高輝度青色半導体レーザー、加工や計測用途に期待される短波長ファイバーレーザーは、同プロジェクトで新たに開発した技術として早期実用化を進めるとともに、今回構築した加工プラットフォームで幅広くユーザーを掘り起こしていく。

 NEDOと13法人は今後、レーザー加工に関する産学官協創のために東京大学が設立した「TACMIコンソーシアム」と連携し、様々な材質、用途での加工事例を蓄積していくことで、同プラットフォームの機能向上に取り組む。これにより各種装置の特性とユーザーニーズの効率的なマッチングや装置横断的な加工データ取得を実現し、効率的かつ迅速な最適加工条件の探索が可能なものづくりの実現を目指すとともに、日本の競争力強化に貢献していく。