ABS需要は旺盛、プロピレン高騰が懸念材料に
ABS樹脂やアクリル繊維の原料であるアクリロニトリル(AN)は、アジア市況が回復傾向にある。足元のAN市況は1200ドル弱となり、4月後半の1000ドル割れから約200ドル近く上昇している状況だ。
その背景として、いち早くコロナ禍から脱した中国経済が活発化してきたことが挙げられる。政府の補助金などもあり、中国国内では自動車や家電などを購入する「リベンジ消費」が盛り上がり、ANの主用途であるABS樹脂がフル稼働を継続。一時期は在庫が積み上がることで、市況が頭打ちになると見られていたものの、ABS市況は1800ドル近くにまで上昇している。また、このほかのAN誘導品や副生品も底堅い需要が続いているなど、ANチェーン全体の需要は悪くないと言える。
こうした中、需給バランスが崩れていないことも大きい。中国では新規設備(26万t)が稼働を開始したが、インパクトは少ないもよう。これまで中国メーカーは、事業環境が良ければフル稼働にするため、需給悪化となるケースが多かった。しかしここにきて、採算重視で稼働調整を行い、市況を維持する動きも見られている。
国内大手の旭化成は、3工場(日本、韓国、タイ)の平均稼働率を、春先には70%程度に抑えていたが、足元では80%にまで上げてきているもよう。この先、コロナ禍が落ち着き、アジア経済が回復してくれば、さらに稼働率の上昇が期待される。
一方、収益的には原料プロピレンが高騰していることが懸念材料。プロピレンは、誘導品のポリプロピレンが不織布など衛生材料向けに引き合いが強いことに加え、自動車部材や食品包装なども中国景気の回復に伴い需要が戻りつつある。そのためプロピレン市況は上昇基調を継続し、足元では850~900ドル台の高水準で推移。ANとのスプレッドは300ドル程度となっており、メーカー各社にとって厳しい事業環境となっている。さらに、アジア地域ではセンター各社の定修が重なり、プロピレンに先高感も出ている。ANの市況上昇に時間がかかれば、スプレッドが圧縮される可能性もあり、この先の市場動向が注目される。