東レ 世界最高レベルの水素精製高分子分離膜の創出に成功

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2018年10月30日

 東レは29日、水素を含む混合ガスから、水素を選択的かつ高透過可能な化学修飾架橋ポリアミド分離膜の創出に成功したと発表した。

 同日開催された記者会見で、地球環境研究所の木村将弘所長は「高分子膜で、ここまで水素の透過性と選択性が高いものはない。例えばアンモニアなど製造プロセスに組み込むことで精製される水素の有効利用などを想定している。また、高純度水素が求められる燃料電池車向けも有力な用途だ」と語った。

 現在、新エネルギーの活用として、水素の利用拡大が注目されている。水素の製造量は2030年には3億tにまで急増し、水素精製システムの潜在市場規模は5兆円規模(推定)に達する見込みだ。

 一般的な膜によるガスの分離は、高温高圧化で行う必要があり、過酷な分離条件下でも優れた分離特性を発揮させるためには、分離膜を構成する多孔性基材の耐熱化と耐圧化が必要だ。

 また、供給ガスから水素を高透過かつ高選択に分離するためには、分離機能層の精密孔径制御が重要で、現状の水素精製高分子分離膜では、分離工程での耐熱性・耐圧性、水素の透過性・選択性の両立に課題があった。

 同社は、耐熱性、耐圧性、高水素選択性を有する新規分離膜の創出に成功。まず耐熱・耐圧多孔質基材設計では、長年培ってきた耐熱高分子材料と分子膜成膜技術の融合に取り組み、非溶媒誘起相分離法により、200℃以上の高いガラス転移温度を有するポリマーの相分離速度を高度に制御することで、均一多孔性基材を実現。同技術によりガス透過性を十分に確保しつつ、耐熱性と耐圧性を大幅に向上させた。

 一方、精密孔径制御技術による水素高選択・透過分離膜設計では、逆浸透(RO)膜で培った界面重縮合技術をベースとし、ガス分離に適した孔構造制御と水素分子に親和性を有する分子骨格導入技術を駆使することで、水素分子(0.29nm)を選択的に透過させるために適した平均孔径を有する新規分離膜設計を行った。

 新規分離膜は、従来の高分子膜性能ラインを大幅に上回る水素透過性、選択分離性を有することを確認している。同社は今後、水素社会実現に向け、スケールアップ・社会実装を進め、5年後の事業化を目指していく。

 木村室長は「環境問題への意識が高い海外などからも問い合わせがある。膜の耐久性向上や、モジュール・システムの開発にさらに注力していく」との考えを示した。