産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、防衛大学校地球海洋学科などとの共同研究により、大気中のCO2とO2の高精度観測から、CO2排出に使用された化石燃料の種類ごとに評価する手法を開発した。
産総研などは2012年から、東海大学・代々木キャンパス内の観測タワー上に装置を設置し、代々木街区の人間活動により排出されるCO2の観測を行っていた。この手法は、産総研が開発した大気中のO2の超高精度濃度計測と、主に森林CO2吸収の評価で用いられる鉛直CO2輸送量の計測を都市部での観測に応用し、O2とCO2の交換比(Oxidative Ratio:OR)を導出するもの。消費する化石燃料の種類や生物活動により、ORが異なるため(都市ガス=1.95、石油=1.44、ヒト=1.2)、CO2排出量を起源別に定量化できる。
今回の大気観測では、産総研が持つ世界最高の超高精度(6桁、PPMレベル)の大気濃度観測技術を用いて、高度52mと37mの2点でO2とCO2の濃度を観測。高度別の濃度勾配に基づく傾度法によって鉛直輸送でのORを導出することで、局所スケールのCO2排出を化石燃料種別に評価した。
都市部でのCO2排出源として石油(主に自動車)、都市ガス、人間呼吸に注目し、観測で得られたこれら起源別のCO2排出量を、代々木近郊の自動車交通量、家庭・飲食店の都市ガス消費量および人口統計のデータに基づくCO2排出量と比較。その結果、夕~夜間の都市ガス消費データに基づく排出量が観測値に比べて多かったことから、この地区の統計データ基準では、実際よりも過大に見積もられてしまうことが示唆された。
また、給湯・調理に伴う早朝の都市ガス消費のピークや、通勤時間帯の交通量増加による午前中の石油消費の漸増も見て取れるなど、大気観測に基づき自動車と都市ガス由来のCO2排出量を街区スケールで分離評価することが可能となった。
同手法は消費する化石燃料の種類毎に評価できるため、ゼロエミッション技術が社会実装されたときのCO2削減効果を、実環境計測に基づいて検証する技術として期待される。今後、放射性炭素同位体比の観測を組み合わせ、大気観測だけで石油・都市ガス・人間呼吸による排出量を分離する手法を目指す考えだ。