産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、熱応答性に優れた固体相変化材料(PCM)を開発したと発表した。金属との複合化で熱伝導率、耐水性、機械加工性を大幅に向上させた。
パワーデバイスなどの電子デバイスの高熱誤動作を避けるための温度制御には、高い放熱効率が求められる。急激な温度上昇対策には、過剰な発熱をPCMに蓄熱し、相変化温度に保つ方法がある。
融解型PCMは、熱容量は大きいが熱伝導率が低く熱応答性が悪い。産総研が開発した固体PCMの二酸化バナジウム(VO2)セラミックスは機械強度に優れ熱伝導率も融解型の10倍以上だが、数W/m・K程度であり急速に熱吸収する用途には不十分。熱応答性の向上には高熱伝導物質との複合化が有効だが、両物質界面の熱抵抗に課題があった。
今回、産総研のVO2の表面活性化技術を利用した金属とVO2の複合化で、反応相や拡散層などの不純物層のない界面が形成することを透過型電子顕微鏡観察で確認。界面熱抵抗は抑えられ、金属と同程度の熱伝導率(約70W/m・K)と大きな潜熱(約100J/㎤)を両立した。これらは複合化する金属の量で調整可能だ。
一方、V2Oは水和物を生成し、水に浸漬すると腐食し溶出する。しかし、複合化する金属を選択すると、電気防食効果で耐水性は大幅に向上。熱交換器など水のある環境への応用が可能だ。また、セラミックスであり機械加工は困難だが、金属複合化により導電性と靭性が向上し、セラミックス加工用ダイヤモンド砥石での研削・切断加工のほか、導電性を生かした放電加工、金属加工用超硬工具での切削加工も可能となった。
今後は実用化に向け、金属分散固体PCMの有償サンプル提供を開始し、蓄熱温度域や蓄熱量などの熱特性を利用目的に合わせて調整できるよう材料設計を進めていく考えだ。