産総研 酸化物系電解質材料で全固体LIBが室温作動

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2021年12月28日

産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、次世代リチウムイオン電池(LIB)である酸化物系全固体電池用の高容量正極と負極を開発した。高エネルギーで安全なLIBに向けての前進だ。

全固体LIBは複合正極層・隔離層・複合負極層からなり、リチウム(Li)イオンが各層内の固体電解質粒子を介して移動することで充放電する。正極層に高エネルギー密度の硫黄(S)、隔離層に硫化物、負極層にLiを使った全固体リチウム硫黄電池は、現行LIBに比べてエネルギー密度が大幅に向上するが、充放電で負極のLi金属が針状に成長(デンドライト成長)して短絡すること、硫化物系電解質が空気中で分解して有毒な硫化水素を発生することが問題である。正・負極をLi2SとSiにすることでデンドライト成長を抑制。酸化物系固体電解質粒子は有毒ガス発生の危険性は低いが、一般的に硬く粒子間の接触が悪いため、高容量活物質で反応性の低いLi2O・Si電極での室温作動の報告はない。

産総研は、酸化物系固体電解質(Li2SO4‐Li2CO3‐LiX)が変形性とイオン伝導性が高いことを発見したが、フルセルの室温試験での性能は不十分であった。今回、比較的イオン伝導率の高い酸化物系固体電解質としてLi2O‐LiIガラスに注目し、その原料(Li2O、LiI)と電極活物質(正極はLi2S、負極はSi)、カーボンなどの導電材料を一括混合・メカニカルミリング処理し、電極内固体電解質材料合成と電極合材の複合化を同時に行った。

Li2SとSiは結晶構造が壊れても充放電特性の低下がないため、微細化することで電池特性が向上。またこの製造方法により活物質粒子‐固体電解質粒子間、固体電解質粒子間の接点が大幅に改善された正極・負極合材を得た。さらに、常温プレスのみで電極を形成でき、生産性は高い。隔離層に硫化物系固体電解質材料(Li3PS4‐LiI)を用いたフルセル試験では、25℃でエネルギー密度283Wh/㎏と、現行の液系LIBとも比肩し得る値を示した。

今後は電解質材料の充放電サイクル安定性とイオン伝導率の改善、活物質増量によるエネルギー密度の向上、薄膜化を検討する。産業界のパートナーと連携し研究を加速し、全固体リチウム硫黄電池の早期実現を目指す。