産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、表面にぬれ広がったオレイン酸の上に水を載せた疎水親油性部材・複数潤滑流体表面を開発し、摩擦係数0.01以下の超低摩擦を実現した。
界面の摩擦は、自動車や産業機器などの損傷や劣化、エネルギー損失の原因となるため、低摩擦技術の確立は重要な課題だ。摩擦係数0.01以下の超低摩擦状態を得るために大量の潤滑油やグラフェンなどの高価な潤滑剤が使われるが、環境への懸念やコストで適応箇所は限られる。水やエタノールなどの低環境負荷・低コストの潤滑流体が注目されるが、粘度が低いため十分な厚さの液膜ができず、少量での安定した低摩擦性は困難であった。
材料界面の摩擦や付着・接着、滑りの制御技術を開発する中、ウツボカズラ表面の液体に対する潤滑性と水平時の液体保持性に着目。ウツボカズラ表面を模倣するために、ガラス部材表面をフェニルシランカップリング剤で処理し、疎水親油性化した。潤滑流体として使用したオレイン酸は部材表面に安定にぬれ広がり、水に対して高い撥水性と滑性を示した。その上に直径3mmの未処理のガラスピンを押し当てて往復摺動試験を実施。摩擦係数は未処理表面の0.63に対し0.015に低下した。
回転摺動試験では、摺動速度によらず摩擦係数は小さく、摺動速度30rpmで摩擦係数が0.01を切った。試験後の表面には摺動痕はなく、表面とピンは接触することなく低摩擦状態を維持していることが分かった。表面にオレイン酸のみある場合はピンと表面が直接接触していたが、水を30㎕載せた表面では水がピンの表面に広がり、接触・摺動中にもピンと部材との間に水が維持されていた。水が流体潤滑状態を維持し、水とオレイン酸との表面張力差で生じたラプラス圧が物質を上方に持ち上げたと考えられる。また、水の量は1㎕以上あれば、摩擦係数は大きく低減した。
今後、より広範な部材と流体の組み合わせで摩擦・摩耗への影響を調査し、表面性能の向上・高度化を目指す。また、企業との連携を推進し用途開発にも取り組んでいく。