・当時の原文のまま掲載しています。ご了承ください。(2010年1月5日掲載)
◇新年特集◇
「PE事業の収益改善、最適生産体制の構築がカギ」
日本ポリエチレン代表取締役社長 村上永一氏(2010年発行日当時 原文のまま公開)
━09年は過剰在庫の調整が1つのキーファクターになった。
世界的な景気後退の影響を受け、PE(ポリエチレンン)の需要も急激に落ち込み、08年12月末には大量の過剰在庫を抱えている状況だった。そのため、09年1Q(1―3月期)に平均40%の思い切った減産を実施し、在庫調整をスピーディーに進めることに注力した。08年末から09年1Qにかけて急激に需要が落ち込んだ背景には、実需の減少に加え、各産業が軒並み在庫圧縮を進めたことが要因になっていた。ただ、中国市場が早い段階で回復し始め、各産業の在庫調整が進展した春先以降は、PEの荷動きも徐々に上向いている。しかし、現段階でもピーク時の80%の回復に止まっている状況だ。ここで注視しなければならないのが、世界各国の経済回復は、政府の需要振興策に後押しされたものであり、それが実需に結び付いているのかという点だ。この部分は依然として不透明ではあるが、10億人以上の人口を持つ中国やインドで需要が生み出されているため、昨年1Qのような極端な落ち込みはないだろうと見ている。
━原油・ナフサ価格も昨年1Qを底に、上昇基調を継続している。
春先以降はナフサ価格が騰勢を強め、それに対応した値上げを7月から「キロ20円」で実施した。その後、秋口から一段と騰勢を強めたため、再度「10円」の値上げを打ち出し、昨年12月中には全ユーザーさんと新価格での取引に入っている。その結果、現在は国産ナフサ4万5000円/klを前提とした価格体系にあるが、春先にかけて一段高で推移する可能性も高く、引き続き今後の動向を的確に見極めなければならない。
━急激な業況変化は業績面にも直撃している。
09年業績については、本格的な12月決算をスタートした04年以降、初の赤字となる見通しだ。当社は03年9月に日本ポリケム(出資比率:三菱化学100%)と日本ポリオレフィン(同:昭和電工65%、新日本石油35%)のPE事業を統合するかたちで営業を開始したが、自主的設備廃棄などの徹底した合理化を進め、安定収益体質の構築を図ってきた。その結果、設立当初から累積で約100億円のコストダウンを達成し、利益率も着実に向上していた。しかし、09年は景気後退による需要消失と原燃料高の中で利益を確保することが難しい状態に直面することとなった。
━急激な環境変化に対応し、今後、収益改善を図るには何が必要になるのか。
現在、PE事業にとって一番の不安材料は、景気後退で消失した需要が戻らないのではないかという点だ。わが国の自動車の生産台数を見ても、今後、景気後退以前の1000万台まで回復するかと言えば、それは難しい。社会全体の構造変化が生じている中で、PEの需要もピーク時まで回復する可能性は低いと見ている。需要消失を補うための新規用途開拓を継続的に行う必要はあるが、現状では需要環境に対応した生産体制の見直しが収益改善のカギを握っている。PEは装置産業であり、稼働率が低下すればその分だけ固定費が増加してしまう。そのため、稼働調整を行いながら新規需要の開拓にのみ活路を見出しても、収益改善を図ることは難しい。まず、早い段階で現在の需要水準に対応した生産能力の見直しを行い、より筋肉質な体制を構築することが重要だと考えている。急激な環境変化に対応し、PE事業で安定収益を確保していくには、〝規模の最適化〟が急務の課題だ。当社の生産量はピーク時で年間100万t強だったが、現在の状況を踏まえると80~85万tの体制に見直す必要がある。親会社との議論を重ねながら、今年から具体的な対応策を検討していきたい。
━中東勢の台頭もいよいよ本格化してくる。
中東で生産されたPEが、日本のマーケットに直接流入する可能性は低い。では、中東勢の台頭で何が脅威になるのか。それは、中国に大量の輸出を行っている韓国、台湾メーカーが中東品にはじき出され、日本のマーケットに矛先を向けることだ。中東勢と比較し、韓国や台湾メーカーは技術力を蓄積しているだけに、死活問題となれば日本向けの付加価値グレードを研究するだろう。それに伴い、わが国のPEマーケットも国際競争が激化する可能性がある。当社は設立当初から国内に軸足を置き、輸出は特定分野に絞られているため、中国を中心としたアジアマーケットへの中東玉流入による影響は軽微だが、韓国、台湾メーカーの動向については、慎重に見極めていかなければならないと考えている。ただ、こうした国際情勢の変化は以前から想定していたことであり、製品の高付加価値化による海外玉との差異化は着実に進んでいる。その結果、製品の特殊化率は現在40%超まで高まっており、早い段階で同比率を50%まで引き上げたい。
━特殊化戦略では、HDPEの自動車ガソリンタンク用途も一段と強化される。
HDPE事業ではクロム触媒の強みを生かした大型ブロー成形品の拡販を強化しており、自動車ガソリンタンク用途の国内シェアは90%超に達している。今後も同分野での展開に注力すべく、大分工場のチーグラー触媒系HDPE一系列をクロム触媒系との併産プラントに改造することを決定しており、その作業もオンスケジュールで進んでいる。大分工場で予定されている今年3~5月の定修期に全作業を完了し、よりフレキシブルな体制が構築される。自動車需要の落ち込みに伴い、ガソリンタンクの受注も減少するのではないかといった見方もあるが、それは全く違う。日本のガソリンタンクのプラスチック化率はまだ40%程度。欧州地域では同比率が70~80%に達しており、日本も同水準まで伸びる可能性が高い。そのため、需要成長のスピードはある程度緩やかになるかもしれないが、着実に伸張していくことが見込まれる。当社は今後もガソリンタンク用途をHDPE事業の強みとし、さらなる拡販に注力していく。
━国内市場のシュリンクと国際競争激化が同時進行する中、今後の成長戦略について。
今年は011年からスタートする新中計の策定を進めるが、需要環境に対応した生産体制の見直しと、新たなPEの開発に力を入れたい。今回の景気後退を契機にPEの需要構造も大きく変化する中で、それに対応しつつ持続可能な成長を実現するには、抜本的な構造改革が必要だ。その点では、生産体制の見直しがカギを握っている。それを無くして、新しい時代での成長は望めない。消失した需要が戻らないと想定することは悲観的に捉われるかもしれないが、08年9月のリーマン・ショック以降、世界は完全に変わった。仮に、ピーク時の水準まで需要が回復すれば、それは非常に幸せなことだが、戻らないことを前提に戦略を見直さなければ、時代変化の大きな波に飲み込まれてしまう可能性が高い。そのリスクを回避するためにも、需要動向を的確に掴み、スピードを重視しながら最適な生産体制を模索していきたい。