・当時の原文のまま掲載しています。ご了承ください。(2010年3月26日掲載)
◇国際化特集◇
「成長・創造・飛躍を体現、〝化学の力〟で6兆円企業へ」
三菱ケミカルHD代表取締役社長
三菱化学代表取締役社長 小林喜光氏(2010年発行日当時 原文のまま公開)
━社長就任以来、独自の経営哲学で三菱ケミカルホールディングス(MCHC)の改革を推進してきた。
石油化学のみで2000億円、機能商品等を含めるとトータルで売上高3000億円にあたる事業からの撤退を決めた。さらに、この3月で生命科学研究所が完全閉鎖となり、三菱化学黒崎事業所附属病院も閉鎖を迎える。一方で、07年10月に三菱樹脂を完全子会社化、スイス・エンジニアリングプラスチック製品の加工で大手のクオドラントの買収で約700億円、太陽日酸の持分法適用会社化で800億円、日本合成化学工業の連結子会社化で1100億円、4月に4社目の事業会社となる三菱レイヨンの3500億円などを合わせると約6000億円の売上高増加となり、差し引き3000億円の売上高アップになる。利益についてもかなりのプラスになった。将来あまり期待できない事業からは手を引き、今後伸びる可能性のある、また既存事業とのシナジー効果が期待できるものを加えた。いずれにせよ、この構造改革はまだ道半ばだ。
━全体の何割程度が終了したのか。
石油化学関連はほぼ7~8割完了した。しかし、これから企業としてグローバルに戦っていく部分、またシナジー効果を出すための方策としては半分も終わっていない。具体的には機能化学、情報電子系だ。「7大育成事業(白色LED、HEV用リチウムイオン電池材料、自動車用ケミカルコンポーネント、サステイナブルリソース、有機光半導体、有機太陽電池、個別化医療)」の事業を作り上げる、という段階で言えば、白色LED事業の基本は構築した。パイオニアとは資本提携を結び、有機EL照明の事業化に向け共同研究を行う。また、電池材料分野では電解液、正極材、負極材、セパレータの四つの部材をすべて立ち上げた。
━三菱レイヨン買収により新たな事業も加わる。
炭素繊維では、ピッチ系とPAN系双方が揃うため、これに関連した新しいビジネスを仕掛けたい。水関連事業については、三菱レイヨンはこれまで浄水器や水処理膜、排水処理事業等を手掛けており、MCHCとしてもグループ会社の日本錬水が、パッケージ型超純水製造装置・供給システムの販売等の事業を行っている。また、三菱レイヨンはUV硬化型コーティング材を扱っているが、MCHCの持つハードコート材料とのシナジーも期待出来る。しかし、前述の炭素繊維の複合材料にしてもまだこれから取り組んでいく事業だ。
━石化事業では、やはり旭化成との水島地区エチレンセンターの最適化に注目が集まる。
このナフサクラッカー関連が、石化関連の構造改革として最終的に残ったことになる。確かに多くの注目を集め、様々な憶測が飛び交っているが、旭化成とは前向きな検討を続けている。コアとなるのは水島地区にあるエチレンセンターの当社と旭化成の2社であり、ある程度の縮小はあるかもしれないが、双方ともプロピレンが必要だという事情もあり、石油精製とも関連してくるため慎重に話し合いを進めているところだ。
━今後は「7大育成事業」を収益の柱に育てていく。
これらの事業はすべて環境対応型のビジネスだ。私が社長就任時に掲げたスローガンは、〝サスティナビリティ、ヘルス、コンフォート〟であり、現在は多方面で〝環境、健康〟というように同様のキーワードが挙げられているが、こうした傾向を予測してあらかじめ〝快適〟という言葉を加えておいた。このキーワードを体現して昨年4月、「地球快適化インスティテュート」を設立した。三菱化学生命科学研究所は今月末で解散するが、コスト面でも同研究所が毎年30数億円の経費を必要としていたのに対し、「地球快適化インスティテュート」は7億円という費用でスタートした。将来30年先、50年先の日本はどうなるのか、またこの企業をどう運営し成長させていくのか。要するに、〝快適〟という言葉をベースとして地球を快適にすることが企業の使命だ。
━最も注力していく事業は。
LED、リチウムイオン電池材料、有機太陽電池が中心になる。来月にはフランクフルトでLED関連の展示会に出展する予定もある。リチウムイオン電池は、安全性の確立等の問題もあり電池自体の製造とはいかないが、四材料全てを取り扱う。一方、照明に関してはすべて最終製品だ。GaN基板、蛍光体、LEDチップを揃え、最終仕上げは外注も含めて考えている。なお、販売は「Verbatim(バーべイタム)」の販売網を駆使して全世界で流通させる。最もプライオリティが高く、収益に寄与するのがこれらの事業だ。LEDだけでも、蛍光体を含めてすでに100億円以上の売上があり、赤色蛍光体はトップの世界シェアを持っている。
━015年に向けた「7大育成事業」の売上高目標は。
売上高は2500~3000億円、営業利益で500億円を目指す。収益率は15~20%だ。最終的には、照明事業がトータルで1000億円、リチウムイオン電池事業が7~800億円、有機太陽電池事業が300億円といった数字が目標になる。また、自動車用の軽量化部材も「7大育成事業」に含まれるが、これは炭素繊維で三菱レイヨンとのシナジー効果があるだろう。現在好調なアルミナ繊維との複合材等を含め、樹脂加工では大きな相乗効果を見込んでおり、自動車用部材では三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨン、クオドラントで総合的に期待出来ると考えている。
━バイオポリマーにも力を入れる。
植物由来、〝サステイナブルリソース〟と呼んでいるが、これは非化石燃料だ。当社の歴史は石油や石炭無しでは語れないが、こうした有限資源はコスト的にも見合わなくなる。そこで、植物由来のポリマー、最終的にはセルロースをベースにした、非可食のものを基にしたポリマー、ケミカルズを設計するという方向に向かうだろう。この〝非化石〟を化学屋が実現する、ということが地球にとっての最大の使命だ。
━三菱レイヨンが事業会社として加われば、世界第6位の化学メーカーとなるが、10年後に向けた取り組みは。
特に大きなイベントを実行しなくても、3~4兆円近くまでは成長するだろう。当社では「成長」、「創造」、「飛躍」という3つのキーワードを打ち出しているが、「成長」は、既存の事業の成長、「創造」はこれまで「7大育成事業」と呼んでいた創造事業、「飛躍」はM&Aと海外展開を示している。これらを実現すれば、015年には4~5兆円、020年には5~6兆円企業へと成長出来る。自動車や電気関連産業が需要減少や海外勢との厳しい競争に晒される中、今後の日本を背負っていくのは〝化学〟だ。また、今後世界においてプレゼンスを高めていくには〝アジア〟、つまりアジア戦略がポイントになる。中東、中国勢が低コストと規模で攻勢をかける中、当社で言えばテレフタル酸、ポリカーボネート、PMMAなど世界№1、№2のシェアを持ち、技術的に優れ、且つアジア展開の道筋をつけた事業に絞る事が重要だろう。