8000号特集 インタビュー 2011年(バックナンバー)

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2025年5月20日

・当時の原文のまま掲載しています。ご了承ください。(2011年5月18日掲載)

◇8000号特集◇
「〝差別化〟で国際競争力強化、海外ネットワーク活用」

住友化学常務執行役員 大野友久氏(2011年発行日当時 原文のまま公開)

  ━わが国石化産業を取り巻く環境も大きく変化している。

 現在は構造的にも大きな転換期に直面しているのではないか。国内頼りの事業展開を行っていくことが難しい状況にあるのは明らかである。その要因としては、少子高齢化に伴う人口問題が前提となっていることに加え、リーマン・ショック以降、中国やインドなどの経済新興国が世界経済をけん引する構図がより明確化したことが挙げられる。特に、新興国の台頭を受け、先進国が相対的に経済的な地位を落としていることは、我々から見ても非常に大きな変化だと考えている。また、新興国の技術水準も向上してきているが、特筆すべきはそのスピードの速さだ。まさに、目を見張るほどの技術進歩が見られている。こうした大きな構造変化の中で勝ち残っていくには、やはりグローバル化がキーワードとなる。数年前までは、とにかく海外で事業を立ち上げることがグローバル化と定義されがちだったが、現在は各メーカーとも№1を狙えるような強みのある事業領域にターゲットを絞り込んだ展開を進めており、こうした潮流は一段と加速していくだろう。ただ、個人的に危惧しているのは、このままグローバル化が進めば、国内における産業の空洞化に拍車がかかり、日本での仕事がどんどんなくなるのではないかということだ。特にあのような大震災の経験からも「頑張れ日本」という気持ちが強い。グローバル化を拡大すると同時に、この空洞化についても何らかの施策を講じていくことが重要なのではないかと考えている。

 ━エチレンセンターの再編が本格化している。

 わが国のエチレンセンター再編については、基本的に「小さくまとまろう」といった視点で進められている印象を持っている。つまり、人口減少で内需が縮小するのであれば、それに連動した最適生産体制を構築することで競争力を維持していこうといった発想だと思う。こうした構造改革は、時代の変化に対応した施策の1つとして、大きな効果を発揮することは確かだ。ただ、当社はさらにグローバル化を進めるうえで、国内に必要な機能はしっかりと残していこうという発想でビジネスを展開している。日本の産業の発展にとって石化産業はベースとなる素材を提供している欠かせない存在だ。石化産業が縮小均衡していくことは、日本経済にとっても大きな影響を与えることになるだけに、我々は事業を維持、強化すべく踏ん張っていかなければならない。それには何が必要かと突き詰めれば、やはり海外メーカーが真似できないような差別化製品を創出し続けることだ。ただ、海外の技術水準も向上しているだけに、石化の世界だけで差別化するのは難しい段階に入っていることも確かだ。しかし、日本の産業全体で見れば、まだまだ輸出競争力のある製品は多数あり、そうした領域で我々の素材を生かす道はあるだろう。日本の経済自体が差別化を一層指向していくことになるはずで、そういったユーザーニーズを的確に掴みながらしっかりと材料提供していくことが最も重要だと考えている。縮小均衡では、負のスパイラルに入っていく可能性もあるため、いかにそれを回避しながら構造改革を進めていくかが、わが国石化産業、 さらには日本経済全体の大きなテーマだと考えている。

 ━差別化を進めるには、時代の変化を的確に捉える必要がある。

 日本全体がこれからいかに差別化を果たしていくかといったテーマは、リーマン・ショックを契機に新たなステージに入っている。例えば、自動車の分野では、これまで高品質なものを作るため一所懸命に技術開発を行い、自動車メーカーが海外展開すれば、我々も日本で培った技術を海外で活用できる体制を整備していくような横展開の構図が現実的だった。しかし、リーマン・ショック以降は、新興国でも自動車の生産が拡大するなど、日本のやり方がオールマイティーではなくなってきている。つまり、高品質だが高価なものを世界でどんどん拡大していこうといった従来の取り組みだけでは、世界のマーケットでビジネスを行うことが難しくなっている。こうした潮流変化に対応し、我々も技術開発の方向性を微修正していくことが必要になっているのではないかと考えている。

 ━世界三極のエチレンセンターを活用した住友化学の戦略は。

 アジアの石化需要が活発なため、日本、シンガポール、サウジアラビアの各センターはフル稼働での生産を継続しており、総じて好調な状況にある。サウジアラビアでも操業は安定してきており、今年は誘導品を含めて高稼働を維持できるのではないか。また、ラービグの第2期計画についてもFS(フィージビリティスタディ)を進めており、今年中にはメドを付け、一段とグローバル展開を拡大していく。加えて、S―SBR(溶液重合スチレンブタジエンゴム)はシンガポールでの新設を決定し、013年の稼働開始を予定している。これは、当社にとって象徴的な取り組みとなる。シンガポールはこれまでポリオレフィンの拠点として位置付けていた。しかし、これからの市場やユーザーニーズを踏まえると、ポリオレフィン以外でも軸足を海外に置く必要性が高まっている。そうした中で、まずS―SBRの新設(年産4万t)を決定したが、競争力のある製品についてはシンガポールを中心とした海外での拠点整備も追求していくことになるだろう。これからの時代は、様々な面で意思決定のスピードを上げ、いかにタイムリーな戦略投資を実行していけるかが重要になる。その上で、海外拠点とのネットワークを最大限活用し、石化事業での差別化を一段と強化することが国際競争を勝ち残るためのカギだと考えている。