東レは31日、従来品以上の優れたイオン・有機物の分離性能をもち、透水性能を3倍に高めた世界最高レベルの超高透水性ナノろ過(NF)膜を創出したと発表した。従来の水処理用途に加え、資源回収、バイオリファイナリーなど特殊用途での利用が期待され、3年以内の実用化を目指し開発を加速していく方針だ。
水処理膜市場は足元で2000億円強だが、2025年には約1.5倍の3500億円に拡大すると予測されている。同社は高性能な水処理膜の開発に注力。逆浸透(RO)膜では巨大市場である海水・かん水淡水化RO膜の開発を進め、市場規模が小さいNF膜では高成長市場である浄水、資源回収、バイオリファイナリーなど特殊用途向けのNF膜開発を推進している。
NF膜はRO膜と比較し、孔径が大きい(1.0ナノメートル)、水と一価イオンが透過、低い運転圧力でろ過が可能といったことから、選択分離や省エネといった特徴がある。しかし選択分離性と透水性はトレードオフの関係にあるため、これまで両立が難しかった。
同社は、透水性能向上に寄与する膜の構造形成メカニズムを極限追求し、NF膜の精密な細孔構造の形成とひだ状構造の形成に成功。これにより、表面積が拡大し、従来品以上の優れた選択分離性がありながら、従来比3倍の超高透水性を実現した。
同技術の期待効果として、運転圧力を3分の1にできること、生産性を3倍にすることなどが挙げられる。用途については、まず浄水用途として家庭用浄水器への展開を図っていく。既存のRO膜では水質は高いものの透水性が不十分であるため、ポンプが必要となることに加え設置面積が大きくなることが課題だった。
今回開発したNF膜では高い水質を維持したままポンプなしで大量のろ過水を得ることができる。NF膜を用いた浄水用途は前倒しで開発を進め、早期に実用化を図っていく。一方、需要拡大が予想される塩湖からのリチウム回収用途への展開にも注力している。
リチウムは、EV(電気自動車)化の加速により、LIB向けに不足が懸念されている。現行の塩湖からの回収プロセスでは、塩湖水を濃縮後、薬剤精製で二価イオンを除去し、炭酸リチウムとして回収しているが、薬剤精製はコストが高く、濃度が低い塩湖では回収が難しかった。
今回開発したNF膜を適用することで薬剤精製のレス化が可能となることに加え、低濃度塩湖でも実用化が期待できる。すでにチリで実証プラントを立ち上げており、1年程度かけてテストを進めていく。その後、低濃度塩湖が多い南米や中国などの内陸部で採用につなげていく考えだ。ただ、プラント建設には2年程度は掛かることから、3年以内の実用化を目指していく。
売上規模は、浄水用途では数億円レベルだが、リチウム回収用途が本格化してくれば数十億円に拡大する見通し。