京都工芸繊維大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームはこのほど、膜状態では圧電効果を示さない汎用樹脂(ポリスチレン:PS)が、電界紡糸法でマイクロファイバー化するだけで逆圧電的特性(加電により変形)を示し、その圧電効果は従来の圧電材料を大きく上回ることを明らかにした。さらに、その特異な逆圧電的特性を説明する数理モデルも提案した。材料の選択肢を広げ、軽量・柔軟・高性能圧力センサーやアクチュエーターを、安価に大面積で製造する可能性が拓けた。
IoTの発展に伴いウエアラブルデバイスの需要が高まる中、軽量・柔軟・高通気性の機能性繊維が注目されている。中でも圧電機能は生体の動作や心拍を捉えるセンサー、振動や音声を出力するアクチュエーターなど用途が広く、圧電性繊維材料への期待は高い。軽量・柔軟な圧電材料としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)類やポリ‐L‐乳酸(PLLA)などの圧電樹脂が、主に膜状で検討されてきた。圧電性向上のためにポーリングや熱処理をしても、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミック系材料には及ばない。
昨年報告の、電界紡糸法PSマイクロファイバーの準静的な正圧電的特性(変形により電圧発生)に加え、今回、逆圧電的特性とその周波数特性を確認した。ガラス基板電極上にPSマイクロファイバー(平均直径4.8㎛)を直接電界紡糸法で堆積させ、その上に金箔電極を接着して試験体を作製。印加時のファイバー膜の膜厚変化を、レーザー変位計で測定した。圧電効率を示す圧電d定数(電圧と変形の相関)は、準静的な電圧印加で3万pm/Ⅴ超、1k㎐の高周波でも約1.3万pm/Ⅴと、圧電樹脂膜の約250倍、PZTの約20倍であった。
電界紡糸法で作製したマイクロファイバー膜は、正電荷と負電荷が上下面に偏在するエレクトレット(半永久的帯電材料)である。これを簡略モデル化し他要素を考慮して数理モデルを構築。測定データの解析から、同ファイバー膜の優れた圧電特性は、優れた帯電性と柔軟性によることを示した。
今後は、電界紡糸PSマイクロファイバー膜の特異な圧電的特性の詳細なメカニズム解明を進めるとともに、着用型の生体動作センサーやアクチュエーターとしての応用展開を目指す考えだ。