宇部興産は20日、深海でのセメント系材料の劣化機構について、調査・分析した研究結果の論文が世界で初めて国際学術誌に掲載されたと発表した。今回の研究は、港湾空港技術研究所と共同で行い、深海でセメントモルタル試験体の暴露試験を実施している。この研究結果は深海でのセメント系材料の活用方策や、海洋インフラの建設技術確立に貢献することが期待される。
深海は人類最後のフロンティアと呼ばれ、近年、海洋資源の開発や海洋エネルギー(洋上風力・潮力など)の利用開始など、世界的に海洋開発の気運が高まっている。将来的に深海域では海洋構造物の建設が予想され、汎用性が高く耐久性に優れるセメント系材料の利用が見込まれる。
今回の研究では、深海域でのセメント硬化体の力学特性や水和物の変化を把握することを目的に、沖縄県多良間島沖約60㎞の海底約1680mで、同試験体の暴露試験を実施。水圧約17M㎩、水温約4℃と、浅海域と比べて非常に過酷な設置環境であり、608日後に回収した試験体の表層は、手で触ると一部がはがれ落ちるほどに柔らかい組織に変化していた。
また、圧縮強さ試験の結果、暴露前と比較して著しい強度の低下を確認。分析した結果、試験体を構成する主要な成分であるカルシウムが浅海域では予想できないほど著しく溶脱していることが明らかとなった。さらに、海水中の炭酸イオンや硫酸イオン、マグネシウムイオンが浸入し、新たに脆弱な水和物を生成したことで表層の形状が変化し、強度の低下など物理的特性の変化をもたらしたと結論づけた。
今回の研究では、主に化学的な劣化に着目したが、深海域で高水圧が試験体に与える影響とそれに伴う化学的な劣化との関係については、さらに詳しく検証していく予定だ。
今後、深海でセメント系材料を利用するために、材料設計や施工方法、構造物の設計手法など、多岐にわたる研究開発および技術の確立が必要になると想定される。両者は、国内外の大学や研究機関との連携を拡充しつつ、さらなる研究開発と技術の確立を進めていく考えだ。