東レリサーチセンターはこのほど、大阪医科薬科大学の天滿敬教授と取り組むホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用ホウ素薬剤に関する共同研究において、高性能レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA‐ICP‐MS)により、BNCT薬剤の分布を組織レベルで可視化することに成功したと発表した。
がんの放射線治療では、X線治療が主流だが、陽子線治療や炭素線治療でも対応が困難ながんもあり、現在、様々な技術開発が行われている。BNCTは、ホウ素と低速中性子の核反応によって放出されるヘリウム核とリチウム核によって、がん細胞を破壊する放射線治療法。捕獲反応後に放出される2つの粒子は飛程が短く、一般的な細胞径を超えないため、ホウ素化合物を投与後に中性子を照射することで、がん細胞だけを破壊できる。同治療法の効果を最大化するためには、ホウ素化合物をがんに選択的かつ十分量集積させる必要があり、その可視化技術の開発が求められていた。
LA‐ICP‐MSは、レーザー光を固体試料に照射し、試料の一部を剥離させて生じた微粒子をICP‐MSへ導入して測定を行う分析装置。同社では昨年度、フェムト秒レーザーとガルバノ光学系を搭載した高性能の同分析装置を受託分析会社で初めて導入。軽元素の高感度イメージング測定技術開発に取り組んでおり、今回、天滿教授の協力のもと、担がんマウスに投与されたBNCT用ホウ素薬剤の体内分布を、高感度測定が可能なフェムト秒LA‐ICP‐MSにより、組織レベルで明らかにすることに成功した。
今回の成果により、高性能LA‐ICP‐MSのライフサイエンス分野での活用の新たな可能性が示された。同社で保有する同分析装置では、大気圧下において、固体試料中にppm以下で存在する微量元素の検出が可能。この特長を最大限生かすため、現在、動物に投与した医薬品の組織分布のみならず、定量まで行う組織内定量イメージングを確立すべく、測定系の構築を推進。同手法により、創薬初期段階において、試験管内で行われる薬剤評価の生体における薬効発現の科学的根拠の獲得に威力を発揮するばかりでなく、創薬研究・医薬品開発の確実性を高め、開発期間の短縮に貢献すると考えられている。
さらに、細胞内のどの部分にホウ素が分布しているのかに関しても、日本初導入のNanoSIMS(高空間分解能50?)を用いて分析を行っていく予定。最新の分析技術を一刻も早く医薬品開発の現場に届けることができるよう、今後も技術開発を進めていく。