積水化学工業はこのほど、独自のフィルム、光学粘着材技術とメタ・マテリアルズ社(カナダ)のメタマテリアル技術の活用により、5G通信向けの透明フレキシブル電波反射フィルムを開発したと発表した。電波環境評価に関しては、ドコモ・イノベーションズ社(米国)の協力の下で検証を進め、5Gから6Gまでの周波数帯域をカバーし、従来にはない高い透明性・電波拡散性を併せ持ったフィルムであることを確認している。
5Gおよび6G通信では、sub6(3.6GHz~)、ミリ波(24GHz~)が使用される。ミリ波は、伝送情報容量が大きいものの、電波の直進性が高く、建造物などの遮蔽により電波が減衰し、通信品質が低下するという課題がある。解決方法として基地局の追加や中継機の設置があるが、高額な追加投資を伴うため費用を抑えた方法が求められていた。
近年、プリント配線基板上にメタマテリアル銅パターン構造を有したミリ波用反射板が開発されているが、積水化学ではメタマテリアル構造で景観を損なわない透明かつフレキシブルな電波反射板に着目し、研究開発を推進。今回、メタ・マテリアルズ社のもつ世界トップレベルの透明ナノ構造のメタマテリアル技術「NANOWEB」と、その製造技術「Rolling Mask Lithography‐RML」を積水化学のフィルム、光学粘着材技術と融合させることで、ミリ波帯域だけでなく、2~60GHzの広帯域に対応した全透過光透過率95%の透明フレキシブル電波反射フィルムの実現に至った。
同フィルムは、高次電波反射構造をもつメタマテリアル層と高透明粘着剤とフィルム表面を保護する特殊コーティング層、特殊粘着剤で構成される。壁や天井などに貼ることにより電波を反射させ、遮蔽部に電波を届けることが可能となり、安価に短期間で通信環境を改善できる。また、電源不要、透明、フレキシブルであるため、外観を損ねることなく、あらゆる形状の部位や場所に施工が可能だ。
ドコモ・イノベーションズのシミュレーション技術を用いて、反射フィルムの効果を企画段階で確認。ミライト(東京)の協創ラボにおける屋内実証実験では、基地局から30m離れた反射フィルムを介して、基地局からの電波を適切に反射制御することで、電波環境を広範囲に改善できることを確認した。
積水化学は今後、透明、フレキシブル、軽量、電源レスという特徴を生かして、オフィス、工場、ショッピングモール、医療・介護施設、各種競技場、農場・畜産場、スマートシティー、地下街、鉄道・道路インフラへの展開に加え、救急、工事現場、キャンプなどの一時的・緊急的な用途への対応も含め、用途開拓を進めていく。2022年度からサンプル販売を開始する予定で、2026年度には売上高60億円を目指す。